SDGs経営塾 第3回「SDGs経営の構造と方法を知る」
私たちビジネスパーソンは、2020年からのコロナ禍を通して、時代の変化の大きな境目を体感中です。その「大きな変化の”大元”がいったい何か」に気づくことで、新しい未来と新しい経営風景が見えてくることでしょう。
特に、SDGs経営には “将来のありたい姿”を明確に持つことが求められます。
明確な”将来のありたい姿”がある経営とそれに迷いのある経営では、次の一手のスピードが違ってきますね。
激動のいま、皆さんは“将来のありたい姿”の明確なイメージを持たれていますか?
本SDGs経営塾では、多くの経営者の方々に“SDGs成長経営”の指針を私の実体験を絡めながら『しる→わかる→かわる』の流れでお伝えしていきます。想像力・創造力の喚起に少しでもお役に立てれば幸いです。
「共通価値の創造」の構造と方法
「共通価値の創造」の実例を図解
ここで、先行されている企業の事例を図解にしてご紹介します。
ポリエチレンにピレスロイドという防虫剤を練り込み、薬剤を徐々に表面に染み出させる「コントロール・リリース」という技術があります。
住友化学グループでは、この技術を工場の虫除けの網戸に使っていましたが、虫を避けられるということはマラリアに苦しむ人を救えるのではと考え、防虫剤処理蚊帳「オリセット®ネット」を開発しました。これを独立採算の事業収益が出る仕組みで、アフリカにおくっています。
世界中のマラリア予防に活躍し、17の目標の「3 すべての人に健康と福祉を」に貢献しているのです(図2)。加えて、現地の雇用創出を目指し、「オリセット®ネット」の製造技術を現地企業に無償供与して現地生産を開始。タンザニアでは、最大7000人の雇用を生んでいます。
この事例からわかるように、本業と社会課題の両方の目配りがあって、それを一つ上のレベルで結び付けることで新しい価値が生まれてきます。
図2 「共通価値の創造」の事例図解
SDGs経営(新しい価値の創造)=環境・社会イノベーション
イノベーションの提唱者、ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションの本質は「新結合(New Combination)」であると説明しています。イノベーションとは、 “既存の「モノやコト」が新しく結びつき、それが新しい価値として社会的に受け入れられて経済が発展している状態”のことです。
「共通価値の創造」と「イノベーション」は同じことを言っていますね。
つまり、「共通価値の創造」とは「イノベーション」のことです。
(複数のイノベーション事例と図解をご覧いただくと、アイデア発想や新事業開発に役立ちますので、次回に詳述します)
何かに行き詰っている時というのは、考え方の中に“余白”がなくなっていることが多いと思いませんか。新しい展開や構想には、意識的に余白をつくる技を自分の中に持つことをお薦めします。(次回以降に詳述しますが、新価値創造研究所では価値創造のための3つの余白・方法を用意しています。今回の赤枠ダイヤモンド領域がその一つです。)
因みに、アイデア発想の方法も一緒です。ベストセラー「アイデアのつくり方」(ジェームス・W・ヤング著)から、一番の肝(きも)を抜粋します。
“アイデアとは、既存の要素の組み合わせ以外の何ものでもない”
これがアイデア発想セミナーのど真ん中になります。
さて、SDGs経営は「本業(強み)とSDGs(社会課題)」の既存の二つの要素の組み合わせです。つまり、要素の一つが社会課題になるのですが、それは第2回コラムの“親亀こけると皆こける”で説明したように、企業の環境・社会の課題解決が“待ったなし”ということに起因します。
ここ2年くらいで、環境・社会の課題を解決する“社会(ソーシャル)イノベーション”という言葉をメディアでもよく見かけるようになりましたね。
SDGs経営とは「環境・社会イノベーション」の分野に取り組むことを意味しています。
そこはまだ手付かずのビジネスの「空白の場」であり、“新しい土俵(市場)”に上ることになります。つまり、千載一遇のビジネスチャンスということです。
求められているのは、価値創造力と機動力と思いませんか。
SDGsは立案、ESGは評価
前述のようにイノベーション(=共通価値の創造)とは、既存の「モノやコト」が新しく結びつき、それが新しい価値の創造が社会的に受け入れられて経済が発展している状態のことです。
つまり、SDGs経営に取り組むには「新しい価値を生み出す(創造する)力」が不可欠です。
SDGs経営を“PLAN→DO→CHECK”のサイクルに組み込むと、SDGsは、社会課題17ゴールを本業で解決する“PLAN”の役割を果たします。そのPLANを実行(DO)して、評価(CHECK)する評価機能がESG(*1)の役割になります。そして、評価されたものを分析して、新PLAN→DO→CHECKと循環させていく。それを表現したのが図3になります。
この内容をセミナー等で説明すると、参加者から、
・そうか、SDGsは立案機能なんだ。SDGsとESGの関係が初めてわかった。
・本業と社会課題を両立する新しい価値を創造する。それを立案(プランニング)することが始まりであり、成長の鍵となるイメージができた。
・2030年に向けた立案の出来不出来が、会社の存続にとって死活問題になると感じた。
・新しい価値を生み出すやり方を知りたい。
等々の反応があります。
経営者の方々には、SDGs経営の理解が更に深まりましたら幸いです。
今回の内容を要約します。
・共通価値の創造から生まれる新しい価値が、つぎの成長の源であること
・SDGs経営の分母となるCSVとは、社会イノベーションのことを意味していること
・SDGsが立案機能、ESGが評価機能であること
図3 SDGsは立案機能、ESGは評価機能
*1 「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取った略語。持続可能な世界の実現のために、企業の長期的成長に重要な環境・社会・ガバナンスの3つの観点で、企業投資の新しい判断基準として注目されている。
次回のトピック
→「イノベーション(=共通価値の創造)」の具体的実例を図解でご案内します。
1.イノベーションの複数実例を図解紹介
2.赤枠のダイヤモンド領域(新しい価値の創造)が意味するもの
執筆者
橋本元司(はしもと・もとじ)
新価値創造研究所代表。SDGs成長経営コンサルパートナー・2030SDGs公認ファシリテーター
パイオニア株式会社で、商品設計や開発企画、事業企画などを経験後、社長直轄の「ヒット商品緊急開発プロジェクト」のリーダーとして、ヒット商品を連続でリリース(サントリー社とのピュアモルトスピーカー等)。独立後、「新価値創造」を使命として、事業再生、事業開発、人財開発、経営品質改革を行い多種多様な企業を支援している。
前回は、SDGs成長経営の分母になるのがCSV(共通価値の創造)とお伝えしました。CSVは、企業が本業を通して社会課題を解決することで利益を上げる経営戦略であり、“社会価値(公益)と経済価値(利益)”を両立(トレードオン)させることを意味しています。
さて、SDGs成長経営のご支援では、経営者と社員がこの図(図1)を基に対話を進め、次の経営戦略の立案と実践をされています。この図は2015年に新価値創造研究所が独自開発したもので、その構造と方法を説明します。
左側の小さい三角形が本業で、右側の小さい三角形がSDGs(17の社会課題)です。その二つの三角形をセンターに寄せるとそこには重なり合った共通領域が発生します。この二つの共通項を探すことがキーです。
企業は成長し続けたいと考え、一方、SDGsは持続可能な未来の実現を目指しています。つまり“続けたい・持続したい”という目的が一緒です。ここでの共通項(キーワード)は“持続性・サスティナビリティ”なのです。
双方の共通項を見出だすことが、将来を考える時にとても重要になります。
〝本業とSDGsは、同じ方向を向いていると気づく”と、SDGsにグッと親近感が湧いてくると思います。如何でしょうか。
このような気づきを得て経営戦略の立案と実践をされるご支援先が増えています。
次に、左右の三角形の辺を延長すると大きな三角形ができて、空白の赤枠のダイヤモンドの領域ができますね。ここに本業(経済価値)とSDGs(社会課題)を混ぜ合わせて、世の中に喜ばれる新しい価値をつくることが、SDGs成長経営の最も重要なポイントとなります。その新しい価値が、ヒット商品や次の柱、本業の成長の源になります。
図1 共通価値の創造