2022年10月号「電気自動車をあなたへ~EVのサブスク・サービス」
Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。今号ではアメリカで急速に普及する電気自動車のサブスクモデルについてのレポートです。
急速に普及する電気自動車
電気自動車のサブスクサービスが登場
そんな中、「電気自動車をあなたへ。夢を見るのは終わりにして、EVを運転しましょう」というキャッチフレーズで、EVのサブスク・サービスを提供するスタートアップが登場した。
カリフォルニア州サンタモニカのオートノミー社は、スマホ・アプリのボタン一つで簡単に安く電気自動車を利用することができる月払いのサブスクサービスを提供している。
図1. テスラをスマホでサブスク (ソース:オートノミー社Webサイト)
例えば、テスラのモデル3は月額490ドル(約7万円)で利用できる。価格には、車両使用料金のほか、メンテナンス、保険もセットになっている。必要な時に自動車を使えるという意味でCaaS:カー・アズ・ア・サービスとも呼ばれている。
ディーラーとの長期契約、事務手続きが不要で、紙のやりとりもなく全ての処理がデジタル(スマホ)で完結する。最短3ヶ月で別のEVへ乗り換えることも可能である。車の所有、リース、レンタルでカバーできていないゾーンを狙う。
図2. 利用手続きはスマホで100%デジタル化 (ソース:オートノミー社Webサイト)
過去の失敗を生かした資金調達で低価格化を実現
創業者兼CEOのペインター氏はフェア社、CarsDirect.com等を設立したシリアル・アントレプレナーで、CFOのバウワー氏は自動車リースのパイオニアであり、1980年代初頭に米国でメルセデスベンツのリースを開始し、テスラでもファイナンシャル・サービスを作り上げた実績がある。
実は二人はフェア社で苦い経験をしている。フェア社は自動車のサブスクサービスのパイオニアで、2017年までにソフトバンクやBMW等の投資家から20億ドル(約2,800億円)以上を調達したが失速。 課題の一つが融資の方法で、車の初年度減価償却費を考慮する必要があったため、月々の手数料が高くなった。また、フェア社は複数の金融機関と取引していたため、各社で車種や顧客プロフィールに違いがあり、管理に忙殺された。
オートノミーでは車の証券化をせず、大手レンタカー会社やカーディーラーのような仕組みで資金を借り入れる方式とする等、フェア社の失敗を活かしている。
オートノミー社は今年1月にサービスを開始、当初テスラのモデル3を百台程度提供していた。テスラは5Gで接続されているため、オートノミー社は車の位置を常時把握することができる。現在は、トヨタ、リビアン、GM、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ等の自動車メーカー17社から23,000台、12億ドル(約1,700億円)相当のEVを一年から一年半かけて調達する計画である。カリフォルニア以外の州にも進出する。今のところ、フリート化されるとすぐに注文が入る状態のようである。
(以上)
最近、シリコンバレーへの日本からの出張者も増えてきた。多くの方から耳にするのが、街を走る電気自動車の多さだ。電気自動車の充電ステーションもオフィス、ショッピングモール、ジムの駐車場等、拡がりをみせている。
カリフォルニア州では2035年までに州内で販売される新車は全部、電気自動車かプラグインハイブリッド車となる。環境に悪いガソリン車の所有者は次第に肩身が狭くなり、立場的には喫煙者に近くなってきている。
ただ、昨今の半導体不足やサプライチェーンの問題でEVの製造が抑えられ、また、これらの問題に比較的うまく対処しているテスラも主力車種を一年で120万円以上値上げしており(資源高とインフレのためと予測されている)、最近はEVが欲しくても手に入りにくい状況となっている。EVが富裕層にのみ普及しているという課題も指摘されている。