2025年問題で考えるMBO~事業承継を阻む3つの壁と、乗り越えるために考えておきたいこと~

事業承継

2025年問題と称される経営者の高齢化などにより、事業承継は国策としても重要視されております。本コラムでは、事業承継における選択肢の一つでもある、役員や従業員によるMBO(経営権取得)の注意点について解説します。

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2025年問題でみる事業承継・後継者問題

経済産業省が発表した「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」を基に、2025年問題の原因である経営者の高齢化と後継者の選定状況に焦点を当て、問題の概要について解説します。

事業承継2025年問題とは

事業承継における2025年問題は、2017年に経済産業省が発表した「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」で登場しました。

試算によると、今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人になるとされています。更に、この現状を放置することで、中小企業の廃業が急増し、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるとしています。

出典:経済産業省「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」(2017)

これらの試算を受け中小企業庁は、事業承継を契機に後継者がベンチャー型事業承継などの経営革新等に積極的にチャレンジしやすい環境を整備するために、「事業承継5ヶ年計画」を策定するなど、事業承継を促しています。

後継者選定状況について(内部昇格による承継が増加傾向)

事業承継における後継者の選定の実態について、中小企業庁の調査によると、2019年において事業承継の全体に占める割合は「同族承継」と「内部昇格」が同程度の割合(1/3程度)となっています。また、近年では「同族承継」は減少傾向、「内部昇格」や「外部招聘」が増加傾向ということもあり、経営者の意識の変化がうかがえます。親族外承継も、事業承継の有力な選択肢となっていることがわかります。

出典:中小企業庁「2020年版 小規模企業白書

役員・従業員による承継のメリット

親族内に後継者が居ない場合の選択肢として、役員・従業員による親族外承継があります。

役員・従業員による親族外承継は、当事者である役員・従業員だけでなく、経営者や従業員・取引先などのステークホルダーにとってもメリットがあり、円満な事業承継の手段の一つです。

現経営者にとっては、親族内に候補者が居ない場合でも会社を存続できるメリットが代表的ですが、事業をよく理解した信頼できる経営陣に会社を託すことができることも大きなメリットです。信頼できる経営陣を後継者として指名できるため、第三者への承継と比較して情報漏えい・風評被害などが起こりにくいなどの利点もあります。

さらに、事業を引き継ぐ役員・従業員にとってのメリットとしては、会社の株主となることで事業経営に対する責任感が備わり、会社の業績向上、将来の上場等、また自身の役員報酬のアップなど経営者としてのモチベーションが生まれます。

また、従業員や取引先などのステークホルダーにとっても、全く知らない第三者が承継するよりも、知っている人が承継してくれるほうが雇用・取引の維持が望めるため、安心できるという点もメリットとなります。

以上より、親族外承継を実施する企業が増加していること、および役員・従業員による承継(MBO)には多くのメリットがあることがわかります。一方、役員・従業員による事業承継を成功させるため、障害となるポイントがいくつかあります。詳細は次章にて解説します。

役員・従業員による事業承継を阻む3つの壁

役員・従業員による事業承継にあたり、直面する3つの壁についての紹介と、その解決方法について解説します。

「後継者選定」の壁

1つ目は、社内に適任者は見つけられるかという「後継者選定」の壁になります。経営について把握している専務や常務などの役員がいる場合、後継者として有望です。ただし、こうした人が複数いる場合には、派閥争いなどに発展しないよう、双方の気持ちに配慮しつつ、人選を進める必要があります。

また、適任者がいた場合においても、本人の了解を取り付け、覚悟を決めさせる必要があります。現経営者からすると、役員・従業員はこれまで部下として接していることから、後継者の選定に対して「当然承諾するだろう」という前提があり、場合により本人の了解を取らずに計画を進めてしまい、トラブルとなるケースもあります。解決のためには、現経営陣と後継者との間で深いコミュニケーションをとり、信頼関係を構築する必要があります。

「後継者自身」の壁

2つ目は「後継者自身」の壁です。後継者に課題がある例として、「経営者としての心構えができておらず、望ましいパフォーマンスが出せないこと」や「事業を俯瞰的にみて、経営全体を理解する能力が十分ではない」などがあります。解決のためには、後継者が承継企業の事業性について、経営者目線に立って深く理解する必要があります。会社の強み・弱みは何か、外部環境・内部環境はどのような状況か、企業競争力の源泉は何か等、承継前に企業の事業性を深く理解することにより、経営者として目指すべき指針が明らかとなり、承継後の盤石な経営体制が構築できます。

「金銭面」の壁

最後は「金銭面」での壁です。後継者にとって、引き継ぐ企業の借入を経営者個人が債務保証している場合、保証人の立場を引き継がざるを得ない場合も多くあり、MBOを阻害する壁となってきました。ただし、最近は政府の2019年成長戦略実行計画などの後押しもあり、改善されつつあります。

また、金銭面という観点では、現経営者の保有する株式を買い取るための資金調達の問題も、承継時に大きな壁となります。MBOの一般的な手順として、譲り受けようとする企業の受け皿として、経営陣(役員・従業員)が特別目的会社(Special Purpose Company,以下SPC)と呼ばれる会社を新規に設立し、このSPCが株主から取得した株式を譲り受けて子会社化します。SPCが株式を買収するための資金を金融機関などから借り入れる際に、適正な額を大幅に上回る借入をしてしまうと、返済のためにキャッシュフローが悪化し、経営に影響を及ぼしてしまう可能性が高くなります。

「金銭面」での壁は、乗り越えるために専門的な知識が必要なことから、信頼できる専門家と協議しながら、良い解決策を模索することをおすすめします。

以上の三つの壁について乗り越えるための施策を検討・実行することにより、事業承継を成功させることができます。

 

総括:役員・従業員による事業承継を成功させるため必要なこと

これまで、役員・従業員による承継が増加傾向にあること、および役員・従業員による事業承継にあたり直面する課題について整理いたしました。本章では、課題を解決する手段について解説いたします。

専門家に相談して「壁」を乗り越える

2章にて取り上げた「後継者選定」の壁、「後継者自身」の壁、および「金銭面」の壁のうち、「後継者選定」の壁については、まずは適任者の有無が大きな課題であり、各社の状況により異なります。

一方、「後継者自身」の壁として、承継前に企業の事業性を深く理解する必要性を取り上げましたが、こちらも専門的な知見を有した第三者の視点を取り入れることにより、より多角的な視点で企業の事業性を理解することができます。

また、「金銭面」の壁については、MBOに必要な資金の調達や、金融機関との債務保証についての交渉など、後継者だけの行動・リソースでは乗り越えることが難しいと考えられます。そのため、主に金融面の知見を有する専門家に相談し、「壁」を乗り越えることをおすすめします。

グループ一体となってMBOをサポートする「事業承継コンサルティング」

きらぼしコンサルティングは、東京きらぼしフィナンシャルグループの傘下にあり、事業承継やM&A、経営計画策定などの各種企業コンサルティングを協働して行うために設立された会社です。

きらぼしコンサルティングでは、様々なライフステージにある企業の事業性などを適切に理解した上で、企業の実情にあったソリューションを検討・提案等いたします。MBOのために必要となる株式の取得資金の調達や、事業性を深く理解するための企業分析、MBOのスキーム検討・遂行等について、きらぼしグループ一体となってサポートいたします。

事業承継・MBOにあたって、課題をお抱えのお客様はぜひ、ご相談ください。

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