2023年5月号
DXの終焉と新たな破壊サイクルAX(AIトランスフォーメーション)の始まり

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。先月に引き続き、社会に急速な変革をもたらす生成AIについてお届けします。

生成AIがもたらすAX(AIトランスフォーメーション)

新しい破壊サイクルが始まった。生成AIによるAX(AIトランスフォーメーション)である。2000年から始まったDXにより、企業のデータのデジタル化、クラウドコンピューティングの活用、データを活用するための組織変革が進んできた。これからはAIの導入、AIを活用した業務と組織の変革が急務となる。

生成AIは企業に前例のないほどの生産性の向上と競争優位性をもたらす。しかも変化のスピードが格段に速い。インターネット、モバイル、DXといった過去の破壊サイクルとは比べものにならない。今後、生成AIを使った実用的なアプリケーションが急速に登場すると言われている。プライバシーや回答の正確性等といった生成AIの現状の課題に躊躇していると出遅れる可能性がある。逆に生成AIをうまく活用できれば、競合他社に追いつき、追い越すことも可能となる。

生成AIの経済的価値と市場の成長予測

ChatGPTはわずか2ヶ月で月1億ものアクティブ・ユーザーを獲得した。TikTokでもこのレベルに達するのに約9ヶ月を要した。ChatGPTは一般消費者向けに生成AIの華々しいレビューを飾ったが、技術者、経営者にとっても大規模言語モデル(LLM)の成熟が、多くの業界に幅広い影響を与える可能性を認識させるきっかけとなった。LLMは、研究開発、ソフトウェア開発、営業・マーケティング、データ分析、カスタマーサポート、人事、財務、法務など、企業の業務機能に幅広い影響を与える可能性があることが認識された。
生成AIは組織構造を変え、企業の生産性と効率性を飛躍的に向上させる可能性がある。

米国トップクラスのベンチャーキャピタルであるセコイアキャピタルは生成AIがもたらす経済価値は数百兆円に及ぶ[i]と予測している。ピッチブック社は今年の企業向けの生成AIのグローバルの市場規模は4,260億ドル(約5兆5千億円)と見積もっている[ii]。自然な会話の理解によるカスタマーサービス、営業の自動化等が牽引する。今後、年率32%で成長し、3年後の2026年には981億ドル(約13兆円)になる、と予測している。

[i] https://www.sequoiacap.com/article/generative-ai-a-creative-new-world/

[ii] https://pitchbook.com/news/reports/2023-vertical-snapshot-generative-ai

IT大手も交え開発競争も盛んに

新興企業への投資も活発で、2018年にOpenAIのGPTがリリースされて以来、飛躍的に投資が増加している。CB Insightsによると、昨年110社の生成AI関連のスタートアップへ投資が行われ、投資額は26億ドル(約3,400億円)に達した。チャットボット、ボイスボット、パーソナルアシスタント、アバター、動画生成/編集といった分野が投資を集めている。生成AIをバイオテクノロジーに活用する分野もホットな領域となっている。膨大な量の生物学的データを分析し、新しい医薬品等の設計の最適化や臨床試験のコストを削減する。

ベンダーによるハードウェアのカスタマイズやアクセラレーションソフトの提供により、LLMや画像生成モデルといった基礎モデルの開発、モデルの訓練のためのコストは下がってきており、基礎モデルの上で斬新なアプリケーションを開発するスタートアップも増えている。GoogleはOpen AIのGPTに対抗する基礎モデルを開発しているAnthropic社に4億ドルを投資した。スタンフォードの研究者のベンチマークによれば、Anthropicの回答精度はOpen AI以外の基礎モデルを上回っている。

マイクロソフトは生成AIで数百億円、近い将来に数千億円を達成する最初の上場企業となりそうである。
Azure Open AIは急速に成長しており、最近のマイクロソフトの発表によると、メルセデスベンツ、シェル等2,500社を顧客に持ち、四半期毎に約10倍増加している。BingはGoogleの検索市場での独占を揺るがし、米国でマーケットシェアを伸ばしている。Edgeブラウザーは8四半期連続でシェアが拡大している。生成AIを使ったパーソナル・エージェントが誕生すれば、検索サイトは必要なくなる。
マイクロソフトの新機能であるCo -PilotとBusiness Chat(エージェント)を使えば、例えば、ユーザーのメールやカレンダーの内容、打合せ相手、作業中のプレゼンテーション、Teamsでのチャット内容等をエージェントが把握し、複数のドキュメントを要約したレポートを作成、会議参加者にメールする、といったことができる。エクセルのデータ分析も生成AIが支援し、より多くの人がデータに基づく判断ができるようになる。

大企業も生成AIの業務活用を検討

スタートアップは、生成AIを既存のプロセスや作業フローに導入して統合しやすいかもしれない。大企業は、プライバシー、知的財産権、セキュリティ、データ品質、AIインフラの運用コストの増大、新たな規制環境などに関連する一連のリスクと影響を評価する必要があり、導入に時間がかかる可能性がある。

一方で、迅速に活用を進めている大企業もある。
CB Insightsによると[i]、現代自動車がオートデスクの生成デザインソフトウェアを使って、新しい車種の部品を効率的に作る方法を検討している。IBMはコンピューターチップの材料を特定しテストするのに生成AIを活用している。CNBCによると、ニューヨークのJPモルガン・チェース銀行は顧客の投資判断にChatGPTのようなソフトウェアサービスの提供を検討している[ii]
同社は今月初めにIndexGPTという製品のトレードマークを申請した。AIファイナンシャル・アドバイザーが出現するのでは、と噂されている。金融系では、ゴールドマンサックス、モルガン・スタンレー、シティーグループ、バンク・オブ・アメリカも生成AIの社内での利用可能性をテストしている。ゴールドマンサックスは社内でのプログラム開発に、モルガン・スタンレーは同社のファイナンシャル・アドバイザーの支援に生成AIが使えるか、テスト中である。

企業の生成AIの導入はまだ初期段階にあり、実験段階にある。Open AIのCEOのサムアルトマンも警告している通り、生成AIにはまだ様々な課題や限界があり、リスクの高いケースに利用する場合には慎重に扱う必要がある。
これらの課題やリスクを正しく理解して、社員を教育・サポートし、組織を変えていくことが要求される。

 

(以上)

[i] https://www.forbes.com/sites/gilpress/2023/03/30/generative-ai-drives-investments-business-adoption-public-concerns-and-new-products/?sh=141a01ff7cc0

[ii] https://www.cnbc.com/2023/05/25/jpmorgan-develops-ai-investment-advisor.html

お役立ち資料

きらぼしコンサルティングのICT/DXご支援について

資料をダウンロード(無料)