2024年4月号
生成AIで画期的な進歩を遂げる人型ロボット

シリコンバレーレポート

今号は人型ロボットについてお届けします。“あの青いネコ”ほど優秀ではないようですが、AIの発達により料理洗濯などの作業はこなせるようになりつつあるようです。

創業2年目で約1,000億円を調達したFigure AI

ChatGPTを開発するOpenAI社が、人型ロボットの開発に取り組むシリコンバレーのスタートアップ Figure AI社と提携した。Open AIはこの提携により“人型ロボットがこれまでとは違う次元で人々の日常生活に役立つようになる”とコメントしている。

Figure AIは2月にエヌビディア、マイクロソフト、インテル・キャピタル、アマゾンの創業者のジェフ・ベゾス等の投資家から6億7500万ドル(約1,000億円)を調達し、企業価値は創業2年目にして26億ドル(約3兆9,000億円)に達した[i]。今回得た資金で商業利用を目的とした人型ロボットの開発を加速させる。

[i] https://www.cnbc.com/2024/02/29/robot-startup-figure-valued-at-2point6-billion-by-bezos-amazon-nvidia.html#:~:text=Figure%20AI%20raised%20%24675%20million,is%20intended%20for%20commercial%20use

目標は日常的な作業を自律的にこなせるロボット

Figure AIは2022年に設立され、そのロボットは「Figure 01」と呼ばれる。見た目も動きも人間のような汎用ロボットで、2本足で歩き、5本指をもつ。労働力不足が最も深刻な製造業、物流、倉庫、小売業での使用が想定されている。
Figure AIはOpenAIとの提携により人型ロボット用の次世代AIモデルを開発する。また、AIのインフラストラクチャー、トレーニング、ストレージにはマイクロソフトのアジュール・クラウドサービスを利用する。
最終的な目標は、日常的な作業を自律的にこなせるロボットを作ることで、将来的には洗濯や料理、コーヒーを作るのに、一人1〜2台の人型ロボットを保有することになるだろうと考えている。

図1. Figure 01動画

Figure AIが先月公開したビデオでは、ヒトがロボットと自然な会話をし、ロボットに認識しているものを聞くと、「テーブルの真ん中の皿の上に赤いリンゴと乾燥ラックの上に皿とコップが見えます。」(図参照)と答え、ヒトが「何か食べるものを下さい。」と言うと、リンゴを取り、手渡してくれる。
なぜリンゴを選んだのかと聞くと、ロボットはテーブルの上で食べられるものはリンゴだけだからです、と答える。さらに、最も高い確率で次に起こることは何かと聞くと、ロボットは皿を乾燥ラックに片付けることと答える。ヒトがそうしてくださいと言うと、ロボットは皿をラックに移動させる。

激化する人型ロボットの開発競争

人型ロボットといえば、テスラのオプティマスが有名だが、Figure AIがオプティマスよりかなり進んでいると評価されている[ii ]。
テスラのオプティマスは、デモでは卵を拾ったり、洗濯物をたたむことができる。デモとしては印象的だが、実はヒトが遠隔操作をしており、デモではヒトがやることをオプティマスが模倣しているという見方がある。Figure AIはFigure 01のデモは遠隔操作ではないと主張している。

人型ロボットの開発は競争が激化している。
韓国の現代自動車傘下でロボット企業のボストン・ダイナミクスも人型ロボットを開発している。
OpenAIは生成AIとロボットが人類の働き方を変えると信じており、ノルウェーの人型ロボットスタートアップの1Xテクノロジーズにも投資をしている。同社は最近1億ドルを調達し、創業以来1億4千万ドルを調達している。
2015年に創業しオレゴンを拠点とするアジリティ・ロボティクス社は、アマゾン等と提携し、配送センターで利用できる二足歩行ロボット「デジット」を開発しており、年間1万台生産できる工場の建設を計画している。アジリティ・ロボティクス社は創業以来1億8千万ドルの資金を調達している。
テキサス州オースティンに拠点を置くアプトロニック社は創業以来2千9百万ドルの資金を調達しており、3月にメルセデス・ベンツと契約を結んだ。

[ii] https://gizmodo.com/openai-figure-01-robot-video-tesla-optimus-embarrassing-1851334166

不足する製造業人材の代わりとなるか

Figure AIは1月にBMWと自動車製造に同社のロボットを使用する契約を結んだと発表した[iii]。
BMWのサウスカロライナ州スパルタンバーグの製造工場で稼働させることを目標とする。FigureAIはBMWが使用するロボットの数を明らかにしていないが、提携は少量から開始し、性能目標が達成されれば順次拡大する予定のようである。

米国商工会議所のデータによれば、2023 年 8 月時点で未埋めの製造業の求人数は 616,000 件ある。
人型ロボットの市場はまだ黎明期だが、ゴールドマン・サックスのリポートによれば、ヒューマノイドロボットは2030年には25万台以上が出荷され、市場規模は2035年までに378億ドルに達すると予測している[iv]。

図2. ゴールドマンサックスによる人型ロボットの市場予測(グローバル)
(ソース:Goldman Sachs Research,High, mid, and low spec refer to robot sophistication, from basic functionality to state of the art., https://www.goldmansachs.com/intelligence/pages/the-global-market-for-robots-could-reach-38-billion-by-2035.html)

[iii]https://www.reuters.com/business/autos-transportation/bmw-taps-humanoid-startup-figure-take-teslas-robot-2024-01-18/

[iv] https://www.goldmansachs.com/intelligence/pages/the-global-market-for-robots-could-reach-38-billion-by-2035.html

人型ロボットの普及にはまだ時間がかかる

イーロン マスクは、2040 年代には地球上に 10 億台の人型ロボットが存在すると予測している。
人型ロボットが機能するには、アクチュエーター、モーター、センサーといった高価な部品が必要となるが、ゴールドマンのリサーチャーによればこれらのコストは今後数年で下がる見込みで、昨年は1台あたり5万ドルから25万ドル程度かかっていたコストが、現在はすでに3万ドルから15万ドル程度に下がっている。
今は人型ロボットへの関心が高まっている初期段階にあり、しばらくはこの状態が続き、ロボットが広く普及するにはいくつかの段階的な変化が必要と専門家は考えているようである。

 

 

(以上)

著者

川口 洋二氏

Delta Pacific Partners CEO。米国ベンチャーキャピタルの共同創業者兼ジェネラル・パートナー、日本と米国のクロスボーダーの事業開発を支援する会社の共同創業兼CEOなど、24年に渡るシリコンバレーでの経歴。NTT入社。スタンフォード大学ビジネススクールMBA。

 
お役立ち資料

DXの終焉と 新たな破壊サイクルAXの始まり
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