2024年11月号
変革期を迎えるファミリーオフィスとスタートアップ投資

シリコンバレーレポート

スタートアップ投資分野で存在感を高めるファミリーオフィス

ベンチャーキャピタルが投資を控える中、ファミリーオフィスがスタートアップ投資の分野で存在感を高めている。他の投資家の撤退とそれに伴うバリュエーションの低下を投資の機会と捉えている。ファミリーオフィスはVCに比べて公に出にくいため、馴染みが薄いかもしれない。株式会社青山ファミリーオフィスサービスの米田 隆氏の定義 では、「ファミリーオフィスとは一族事業を所有する一族の永続化を実現するために、様々な富を管理・運用する組織」である。ファミリーオフィスが対象とする富は現金預金・有価証券・不動産等の有形資産や無形資産がある。ファミリー・オフィスの数は、2019年以来3倍に増加しており、その富が増大するにつれトップクラスのベンチャー投資家やプライベートエクイティ投資家の仲間入りをしつつある。

不動産からスタートアップへ

PwCの最近のレポート「PwC’s Global Family Office Deals Study 2023」によると、2022年のスタートアップ資金の3分の1近くがファミリーオフィスからのものだった。ファミリーオフィスは毎年、スタートアップに多額の資本を投資している。世界的にスタートアップ投資が減少している中で、ファミリーオフィスのスタートアップ投資におけるグローバルシェアは高い水準で安定的に推移している(図1)。

図1. 世界のファミリーオフィスのスタートアップの投資額推移(2013年上半期から2023年上半期まで):オレンジがファミリーオフィスのシェア(ソース:PwC’s Global Family Office Deals Study 2023)

PwCの最近のレポートでは、ファミリーオフィスは、世代を超えた富の保全と維持を託されてきたトラディショナルな存在から、変革期を迎えている、と述べている。スタートアップ投資からM&A、不動産開発に至るまで、幅広い資産クラスに積極的に関与し、グローバルな取引市場において、より重要かつ変化に迅速に対応する投資プレイヤーになりつつある。
さらに、同報告書によると、ファミリーオフィスは、不動産からスタートアップへと投資対象を移行させている。スタートアップの高い成長ポテンシャルと、ファミリーオフィスの長期的な投資戦略が整合性があるためだ。

ファミリーオフィスの強み

VCより長期的な視点で投資ができる

ゴールドマン・サックスの報告書によると、昨年調査したファミリーオフィスの41%が、2024年にベンチャーキャピタルを含むプライベートエクイティへの資本投資の割合を増やす計画があると回答した。
Amazonの創業者のジェフ・ベゾスのファミリーオフィス「Bozos Expeditions」は2024年1月にAIのサーチ・エンジンのPerplexity AIにシリーズBで投資し、4月にも再投資を行ったが、1月の投資分は4月に2倍になったと予測されている。
ベンチャーキャピタルは通常、ファンド期間が10年のため、10年以内に投資先企業がM&Aか上場するスタートアップに投資を行うが、ファミリーオフィスはより長期的な視点で投資先を決める傾向が見られる。それは、自分の次の世代、次の次の世代の事業を考えているためである。ベンチャーキャピタルは、ファンドの投資家のために、ファンド期間内に通常10年以内に売却や上場させて現金化する必要があり、ファミリーオフィスは投資先企業が大きく成長するまで現金化を待つことができ、有利である。

開発に時間がかかるスタートアップと好相性

スタートアップもこの長所を活用し、ベンチャーキャピタルからは資金を調達せず、ファミリーオフィスや個人のエンジェルからのみ資金を受け入れる会社もいる。短期的なリターンにとらわれず、その時々の流行やバブルに踊らされることもなく、長期的な視点での経営がしやすくなる。
時間のかかる先進的な技術を持つスタートアップやクライメートテック、先端素材、ライフサイエンス、ハードウェア型のスタートアップとファミリーオフィスは相性がいい。

ベンチャーキャピタルとの共同投資も増加

多くのファミリーオフィスが自社内にスタートアップ投資のスキルを持つ洗練された投資チームを持っている。ただし、ファミリーオフィスの投資先は幅広く、自社だけで投資先を発掘、評価するには限度があるため、ベンチャーキャピタルのファンドにも投資を行い、ネットワークを広げている。
近年、ファミリーオフィスとベンチャーキャピタルの共同投資が増加している。PwCのレポートによると、あるファミリーオフィスは、「スタートアップ投資が実行される数は減少しているものの、人気のスタートアップは複数の投資家から投資の申し出を受け取っており、依然として投資者間での激しい競争がある。おそらく、以前よりも競争が激化している。したがって、今日では、ディールフロー(資金調達をしているスタートアップの案件)を共有し、適切なパートナーと共同投資することがさらに重要であると考えている。」と述べている。

ファミリーオフィスのスタートアップへの直接投資の場合は、少額投資への関心が高まっており、共同投資も組み入れて、リスク管理と分散化を図っている。ファミリーオフィスのアドバイザーらによると、ファミリーオフィスは、スタートアップへの直接投資を最先端のテクノロジーや市場について学ぶことができる機会として扱うことが多いという。学んだことをより大規模な投資や自分の会社に応用することを狙っている。

ファミリーオフィスの欠点

ファミリーオフィスの欠点は、ベンチャーキャピタルより一社当たりの投資額が通常小さいということである。また、ファミリーオフィスの組織の構造や人員などの内部情報は隠されていることが多く、資金調達をするスタートアップにとって、誰が担当なのか、誰が意思決定者なのかわかりにくいといった問題もある。
そもそもファミリーオフィスはVCほど公に知られておらず、見つけるのも簡単でない。見つかっても関係・信頼構築に時間がかかる、という問題もある。

ファミリービジネスからの資金調達ポイント

スタートアップの創業者がファミリーオフィスからの資金調達を考える場合、自分達の事業セクターで富を築いたファミリーオフィスを探すことが勧められる。
ファミリーオフィスは自分達のビジネスを補完するビジネスを見つけたいと考えている場合が多い。また、ファミリーオフィスは各々専門分野を持っているが、その分野以外の業界の知識、経験が豊富でない場合もある。スタートアップは、将来、事業の整合性や経営の方向性がファミリーオフィスの意図と違ってこないか、注意をする必要がある。

お役立ち資料

DXの終焉と 新たな破壊サイクルAXの始まり
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