2025年4月号
シリコンバレー有力VCが選ぶ2025年AI新興企業トップ50社

2025年4月10日、シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタルであるセコイア・キャピタルは、Forbes[i]とMeritech Capitalと共同で、「2025 AI 50」と題する有望なAIスタートアップ50社のリストを発表した[ii]。今回の特集タイトルは「AI50: AI Agents Move Beyond Chat(AIエージェントはチャットを超える)」であり、AIは2025年に新たなフェーズへと進化していることを示唆している。
[i] https://www.forbes.com/lists/ai50/
[ii] https://www.sequoiacap.com/article/ai-50-2025/
AIの進化:チャットから「実務を担うエージェント」へ
「AI 50」注目企業の紹介
まず、生成AIモデルを開発するOpenAIおよびAnthropicは、極めて多額の資金を調達しており、今年のAI 50リストにおいても際立った存在となっている。両社はこれまでに合計810億ドルのベンチャー資金を集めており、これは今年のリスト掲載企業全体による資金調達総額1,424億5,000万ドルの過半を占める。
一方で、競争環境はますます激しさを増しており、Elon Muskが立ち上げたxAIや、OpenAIの元CTOであるMira Murati氏によるThinking Machine Labsといった有力な新興企業の参入も目立った。
2025年の「AI 50」に新たに加わった注目企業には、エンジニアによるコードの作成・編集を支援し、年商1億ドル以上・企業評価額25億ドルに到達したAnysphere(製品名はCursor)、英語やスペイン語学習のために1,000万人以上に利用され、企業評価額10億ドルに達したAI言語チューターアプリのSpeak、そして医療従事者(医師、研究者、看護師など)が、患者ケアの現場で迅速かつ正確な情報にアクセスできるように、AI(特に大規模言語モデル)を活用し、医療文献や臨床試験データを集約・合成・可視化するOpenEvidenceなどがある。
法律業界の変革を牽引するHarveyの台頭
セコイア・キャピタルは、AIが実務を遂行する例として、新興企業Harveyを取り上げている。Harveyは法律業界向けに特化した生成型AIプラットフォームで、法律事務所や企業法務チームの業務効率化を支援する。OpenAIのGPT-4を基盤に、インターネットデータと法律特化データ(判例、参照資料)で訓練されたカスタム大規模言語モデル(LLM)を提供し、法律事務所や企業が自社の文書やテンプレートでさらに訓練し、パーソナライズ可能となっている。
Harveyは単に法的な質問に答えるだけでなく、文書レビューや事案の予測分析など、法務における一連のワークフロー全体をカバーできる。同社のプラットフォームは、契約書の起案、修正案の提示にとどまらず、交渉や案件管理、クライアントへのコンタクトといった通常は若手弁護士数人が必要となる作業まで自動化する。Harveyは、AIが「便利なツール」から「実務を担う実践的な問題解決者」へと進化していることを象徴する存在となっている。
ソフトウェア開発を変えるCursor
AI50に選出された企業の多くがエンタープライズ向けのツールを提供している。
24歳のマイケル・トゥルエルと3人のMIT同級生によって2022年に設立されたAIコーディングツールのCursorはソフトウェア開発者の生産性を大幅に向上させるツールとして急速に成長している。約一年で約100億円もの契約を得ており、2025年3月時点で毎日100万人以上が使用し、3万人の有料顧客を持つ[i]。。そのテクノロジーは、誰でも平易な英語で要求するだけで、アプリケーションを生成することができる。
[i] https://www.cnbc.com/2025/04/17/openai-looked-at-cursor-before-considering-deal-with-rival-windsurf.html
顧客対応の未来を担うSierra
Sierraは企業向けの対話型AIプラットフォームを提供し、同社のエージェントが、顧客対応を自動化、顧客のエクスペリエンスを大幅に改善する。
自然言語処理(NLP)と複数大規模言語モデル(LLM)を活用し、顧客からの質問応答、問題解決、アクション実行(例:CRM更新、注文管理)を行う。企業は自社のブランドトーン(例:カジュアル、プロフェッショナル)やポリシーに合わせ、指示をカスタマイズできる。
エージェントは24/7対応で、ログイン問題、パスワードリセット、注文追跡、サブスクリプション管理を自動化、顧客のニーズや感情を分析し、パーソナライズされた製品のレコメンデーションを行う。返品、請求紛争といった複雑な問題解決も対応可能である。
ロボティクスと「物理的AI」の台頭
ロボティクス分野については、企業によるロボットの大規模な導入にはまだ至っていないものの、AIモデルとハードウェアの統合が進み、著しい進歩を見せている。NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアンは、最近の開発者会議の基調講演で、「産業用途およびロボティクスにおける“物理的AI”の市場機会は50兆ドル規模になる」との見解を示した。
人型ロボット(ヒューマノイド)を開発しているFigure AIは、年間12,000台の生産が可能な量産施設の建設を発表し、さらに新たな汎用ビジョン・ランゲージ・アクション(VLA)モデル「Helix」を公開した。
一方、Skild AIは自社でロボットを製造するのではなく、あらゆるロボットに統合可能な汎用ロボティクス基盤モデル「Skild Brain」の開発に注力している。SkildはこのSkild Brainを活用したサービスをロボットメーカー向けに提供する計画も進めている。
コンシューマーAIの次なるステージ
コンシューマー向けAIにおいては、すでに数億人のユーザーがChatGPTのようなチャットボットを通じて高度なAIとの対話を日常的に行っているものの、AIが日々のタスクを実際にユーザーの代わりに遂行するようなアプリケーションは、まだ本格的には登場していない。セコイア・キャピタルは来年2026年には、この状況が大きく変わる可能性があると見ている。
Anthropicが最近リリースしたコーディングツール「Claude Code」は、自然言語で指示を出すだけで、コードの解析や修正、テストの作成といった複雑な開発作業を実行できる。こうした技術がさらに進化し、汎用化されていけば、AIがコンシューマーのスケジュールを管理したり、旅行を予約したりするなど、日常生活のさまざまな業務を代行する時代が到来する可能性がある。
2025年、AIは実用フェーズへ
2025年のAI業界は、モデル開発から実用化フェーズへと本格的にシフトしつつあり、企業は「AIをどう活用するか」という視点での競争に直面している。
今後は、業務を代替・拡張するエージェント型AIの普及や、ハードウェアとの統合によるロボティクス領域での進化、さらには日常生活に密接に関わるコンシューマーAIの台頭が加速すると見込まれる。
AI技術の進化とともにビジネスモデルも変容していく中で、2026年以降は、より実務的な成果を生み出すAIが主役となるフェーズに突入するだろう。
著者
川口 洋二氏
Delta Pacific Partners CEO。米国ベンチャーキャピタルの共同創業者兼ジェネラル・パートナー、日本と米国のクロスボーダーの事業開発を支援する会社の共同創業兼CEOなど、24年に渡るシリコンバレーでの経歴。NTT入社。スタンフォード大学ビジネススクールMBA。

レポートによると、これまでの数年間において、AIは主に質問応答やテキスト、画像などのコンテンツ生成といった補助的な役割にとどまっていたが、今年はAI自らが実務を遂行する「エージェント」として機能する時代が到来しつつあると分析している。
これまではOpenAI、Anthropic、xAIといった生成AIモデルの開発企業が注目の中心であったが、2025年以降は、それらのモデルを活用し、具体的なビジネス成果を創出するアプリケーションレイヤーのツール群が主役になると予測されている。
図1.2025年の注目AI企業トップ50社(Sequoia CapitalのWEBより)