2021年6月号「3DプリンターとAIによる製造の限界への挑戦」

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。                        今号は、製造業の未来を大きく変える3Dプリンティング技術についてご紹介します。

約710億円の大型資金を調達した宇宙ベンチャー

Amazonの創業者のジェフ・ベゾスが今月7日、自分が立ち上げた宇宙開発ベンチャーのブルー・オリジン社のロケットで宇宙旅行へ出発すると発表した。同乗者をオークションで募り、またたく間に約30億円で落札された。このニュースの最中、今月8日にある宇宙ベンチャーが評価額約4,600億円で約710億円の大型資金を調達したと発表した。ブルー・オリジン社、イーロンマスクのスペースX社に並んで注目されているレラティビティ・スペース(Relativity Space)社で、3Dプリンターでロケットを製造している。そして、年内には最初の3Dプリンターロケットの打ち上げを計画している。共同創業者兼CEOのティム・エリスはブルー・オリジン社のロケット関係の技術者だった。ジェフ・ベゾスも同社をしばしば訪問しており、ニュースで噂になっている。

約85%のパーツが3Dプリントのロケット

Relativity Space社の今年打ち上げ計画の最初のロケット「Terran 1」は1,250kgのペイロードを低軌道へ運ぶことができる。現在開発中の「Terran R」 は2段式で、高さは約66メートル、再利用可能でSpaceXのファルコン9と同程度のペイロード(約9トン)を軌道に乗せることができる。Relativity Spaceは独自の材料を使った世界最大の3Dプリンター、そしてAI制御(センサーによるデータ収集分析)により、「Terran 1」の約85%のパーツを3D印刷(製造)した。エリスは3Dプリンティングにより、劇的にロケット製造の複雑さを解消、プロセスのシンプル化に成功、修正と改善を迅速に繰り返し、製造期間が大幅に短縮できた、と話している。

火星でも製造可能な3Dプリンティング!

過去60年、宇宙ロケットの製造には大規模な工場、金型、複雑なサプライチェーン、高価な人件費が必要で、10万点以上のパーツが必要なロケットを製造するのに2年以上を要していた。Relativity Spaceはインテリジェントなロボット、ソフトウェア、データ主導の3Dプリンティング技術を垂直統合し、製造を自動化、「Terran R」の場合、材料からロケット完成まで約60日以内で製造可能にした。すなわち、製造期間が2年から2ヶ月に短縮された。部品数は2桁削減、1,000に満たない。既存の製造方法では不可能な構造もアルゴリズムで生成できる。マーケットのニーズに応じて、設計も簡単に変更できる。さらに、同社は3Dプリンティングであれば火星で製造ができる、と地球外での製造も視野に入れる。なお、同社は前回ご紹介したアクセラレーターのYコンビネーターの出身である。

建築業界の様々な課題を解決する3Dプリンティング

3Dプリンティングの波は建設業界にも押し寄せている。今年2月、米国で初の3Dプリンターで建築(印刷)された家が売りに出た 。約42坪(139平米)の広さでニューヨークで価格は3,000万円程度。そのエリアで同様の物件の価格の半分程度である。テキサス、カリフォルニアにも広がっており、近年の材木不足と高騰、建設人材不足等の課題を解決する方法として、注目されている。 米国の3DプリンターホームのパイオニアーのICON社はディベロッパーの3Strands社とテキサスに3Dプリンターホームを建設 、入居問い合わせが殺到しているという。同社は通常のホーム建設に比べ、10%から30%安く、また7ヶ月程工期を短縮できるとしている。米国、メキシコに20戸程建築しており、災害支援住宅として利用されている家屋もある。 3Dプリンターホームの競合のMighty Buildingsは、通常の建設に比べ廃棄物を90%削減し、30−40%安く建設できると主張している。太陽エネルギーを使っておりCO2ネットゼロを目指している。同社はコンクリートでなく、ポリマー複合材を使っており、熱伝導性が低く屋内外で熱の損失が少ない。工場でパーツを印刷し、現場で組み立てる方式である。 米国では3Dプリンティングベンチャーの上場も相次いでいる。Desktop Metal社はSPACによるIPOの走りで、2020年の12月に約630億円を調達して上場、Rocket Lab社、Markforged社、VELO3D社、Redwire社等が続いており、市場の期待も大きい。大量生産には対応できない、という3Dプリンティングの欠点に挑んでいるベンチャーも台頭しており、今後、応用領域も広がりそうである。