2021年7月号「データから読み解くユニコーン・ベンチャー」
Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。
シリコンバレーのユニコーン・ベンチャーにどんなイメージをお持ちですか? 今号は、そんなイメージを覆す(かもしれない)ユニコーン・ベンチャーに関する分析を紹介します。
4年間かけて収集した約3万ものデータポイントを分析
創業に必要なスキル・経験とは?
まず、競合環境に関しては、85%のユニコーンには創業時から競合相手が存在していたことがわかった。
そして、50%以上のユニコーンは創業時に長い歴史を持つ大手の企業と競合関係にあった。
20%のユニコーンは10社以上の競合がいて、かつそのうち支配的なポジションを占める事業者は存在しない環境で創業していた。
一方で、既に大きな資金調達をしているベンチャーが競合にいる環境でユニコーンに成長できたのはごくわずかしかなかった。
創業者の履歴については、多くのユニコーンの創業者はその業界の経験を持っていなかったことがわかった。
科学的な専門性が必要なヘルスケアやバイオテックの分野を除き、コンシューマ・テックのユニコーンの創業者のうち、同じ分野での就労経験がある創業者が占める割合は30%に過ぎず、法人向け/SaaSの分野では40%にすぎなかった。
それよりも、チームや営業を引っ張るソフトスキルや、人脈やリソースを持ち、活用できることが成功の重要な要因だった。
優れた起業家は自分のリソースを活用して、自分達が破壊しようとする業界について深く調べたり的確な質問をすることで、他の誰よりも業界のことを深く理解していた。
ベンチャーは新たな市場開拓者か?
通常、ベンチャーは新たな市場を開拓していくものと思われがちだが、
ユニコーンの多くは、新しい市場を作り出すのでなく、創業時に既に存在する大規模な市場でスタートしていた。
もちろん例外はあり、Coinbaseはビットコインが5ドルしかしない小さな市場のときに創業している。
ベンチャーが提供する製品/サービスについては、顧客が本当に困っていると認識している分野をピンポイントで狙い、その痛みを取り除く戦略と、既存のソリューションに対してよりよい価値や効率、喜びを提供するものがある。
前者を狙うのが王道と思われるが、三分の一ものユニコーンが後者だった。
ユーザーがいつも使っていたいような製品を提供し、それが習慣化し、 製品に関するコミュニティや強力なブランドをつくっていく。
成功する創業者は若者ばかり?
最後に、ユニコーンの創業者の創業時の年齢を見てみよう。
20代の若いイメージがあるかもしれないが、過去15年間につくられたユニコーンの創業者の創業時の中間年齢は34歳だった。
スティーブ・ジョブズがアップルを共同創業したのは21歳、ビル・ゲイツとマーク・ザッカーバーグは19歳で創業しており、このような例外的な事実が人々の起業家への年齢の見方を歪めている、とのことである。
ジェフ・ベゾスとイーロン・マスクは30代で自らの経歴の中で最も成功した事業を立ち上げている。
Zoomの創業者は41歳で起業した。ヘルスケアやバイオテックでは他の分野のベンチャーに比べてさらに年齢が上がり、最高齢はJuno Therapeuticsの創業者のPhilip Greenbergで、68歳で会社をスタート、約1兆円で売却した。
Tamaseb氏は起業に年齢は関係ないと結論づけている。
*1 https://www.publicaffairsbooks.com/titles/ali-tamaseb/super-founders/9781541768413/
*2 https://alitamaseb.medium.com
シリコンバレーのベンチャーキャピタリストがユニコーン・ベンチャー(企業価値が1,000億円以上のベンチャー)と
その他のベンチャーについてこれまでにない規模のデータを収集し、比較分析した。
その結果には、多くの人が成功するベンチャーについて直感的に考えていることと反する事実が含まれていた。
2,000億円以上を運用しているベンチャーキャピタルDCVCのパートナーのAli Tamaseb氏は、
2005年から2018年までの約3万ものデータポイントを4年間かけて収集、分析した。
そのデータには200社以上のユニコーンが含まれる。
DCVC自身も10社以上のユニコーン・ベンチャーに投資をしている。
経験的に考えていたことを実証するケースもあったが、ステレオタイプ的な見方を否定するような事実も明らかになった。
例えば、ある起業家が会社を立ち上げようとしていて、
その分野には大手企業の強い競争相手がいるような場合、みなさんはどう判断するだろうか。
一見、ベンチャーには勝ち目がなさそうに思える。
また、参入しようとしている事業分野で、ベンチャーの社長の職務経験がまったくなかったらどうだろうか。
Tamaseb氏はこのリサーチに関して本*1を出版しており、ここでは詳細は書けないが、
同氏が自身のウェブサイト*2等で公開している情報の一部を以下簡単に紹介する。