2021年8月号「欧州自動車メーカーも注目するエコな新素材」

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。
日本でもSDGsの視点なしに企業の発展はないと言われるようになりました。
今号では米国でのエコ素材に関する話題をご紹介します。                       

広がるサスティナビリティ技術への投資

欧州自動車メーカーのシリコンバレーの技術発掘チームは、EV関連や製造関連のデジタル・トランスフォーメーションだけでなく、環境にやさしい新素材や材料の技術の発掘にも近年ますます力を入れてきている。例えば、シリコンバレーにあるBMWの戦略投資子会社は、サステナビリティの技術に集中して投資をする約300億円のベンチャー・ファンドを6月に立ち上げた。BMWは2030年までに自動車製造の全バリューチェーンで2億トン以上のカーボン排出量削減を目標にしている。7月にはサステナビリティ・ファンドからの第一号案件として、植物由来のフェーク皮革のベンチャーに投資を実行、戦略的な業務提携も開始すると発表した。

100%天然植物由来のヴィーガンレザーも登場

BMWの投資子会社が投資したNational Fiber Welding Inc. (NFW)社は植物由来の皮革やテキスタイル等を開発している。石油ベースの合成皮革を完全にリサイクル可能な素材に置き換えるのが目標である。麻、廃棄されたコルク、ココナッツ、植物油等を原料として、ヴィーガン・レザーの「Mirum」を開発、製造している。「Mirum」は石油ベースの合成皮革より耐久性が強く、自動車の皮革シートとしての応用が検討されている。

NFWの強みは、分子レベルでの結合を正確に操作できるファイバー・ウェルディング技術で、合成接着剤等を使わずに天然繊維を結合できる。植物皮革は他にもマッシュルームベースのレザー(BOLT Threads社のMylo等)や、廃棄されたパイナップルの皮を使ったレザー等、様々な企業が競争している。NFWによると、これらの多くが耐久性を確保するため少量のプラスチックのコーティングが必要となるが、NFWの植物皮革はプラスチック素材をまったく必要としない。世界初の100%天然植物由来のフェーク皮革である。

〔画像〕National Fiber Welding社の食物皮革

図1.National Fiber Welding社の食物皮革 (同社ウェブより)

環境素材が企業価値を高める

BMWは既に5シリーズのシートをヴィーガン皮革に切り替えており、2月にはMiniのインテリアにはレザーを一切使わないと発表した。NFWはBMW等からの資金調達で、約1万平米のMirumの新工場の建設を予定しており、従業員も130名から大幅に増員する。

NFWは天然素材を使い環境に配慮したスニーカーで有名なAllbirdsや、ポルシェ等とも提携している。AllbirdsはNFWに投資も行い、植物皮革の靴を開発中で、12月に出荷予定とのことである。動物の皮よりカーボンインパクトを40倍減らし、プラスチック由来の合成皮革よりカーボン排出量を17倍少なくする。Allbirdsは約1,600億円の企業価値で評価されており、今年上場予定である。

エコな素材に関しては、酵母等の微生物のDNAをコンピューターのようにプログラミングし、従来の石油由来の材料より安価で二酸化炭素排出量の少ない製品を生産する合成生物学の技術もシリコンバレーの投資家の注目を集めている。石油由来の化学物質や植物・動物由来の製品の必要性を減らすことで、環境への貢献が期待されている。

市場規模1兆円以上!?合成生物学の革新

合成生物学の革新はインターネットと同規模のインパクトがあると考える人もいる。現在の市場規模は1兆円以上と推測されているが、現状ではこれらに取り組んでいる企業の総売上は1,000億円に及ばず、全社が赤字経営の状況である。サメの肝臓から作られていた保湿剤のスクワランや、バニリン(バニラの香料)、ビタミンE、砂糖の代替品、などニッチな製品の開発が進んでいる。

ビジネスモデルとしては、材料の製造の他、自社で化粧ブランドを立ち上げ、工場も作って垂直統合型で最終製品まで開発、販売するモデル、逆に製造技術の提供にフォーカスするモデル等がある。Ginkgo Bioworks社はゲノム編集を使って生物や細胞をコンピュータのように簡単にプログラムできるようにするためのプラットフォームを構築しており、業界最大の約1兆5千億円の企業価値でSPACを使って上場予定である。