2021年5月号「全米最強アクセラレーター・Yコンビネーター」

シリコンバレーレポート

Delta Pacific Partners 川口 洋二氏がお届けするシリコンバレーレポート。                        今号は、全米最強のアクセラレーター、Yコンビネーターをご紹介します。

合格率わずか2%!Yコンビネーター第32回DemoDay開催

3月にシリコンバレーのアクセラレーターであるYコンビネーターの第32回デモデイが開催され、過去最大の319社のベンチャー起業家が投資家を相手にZoom中継で熱弁をふるった。 低コストで偵察衛星並みの高精細画像撮影を可能にする低軌道小型衛星、複雑な射出成形の設計ソフトウェア、 気候変動対策の二酸化炭素回収装置、B2B、バイオテック等様々な分野のベンチャーが登壇した。 登壇ベンチャー数は毎回増加傾向で今回のプログラムへの応募ベンチャー総数は1万6千社にのぼり、 そのうち選択されたのは319社、合格率はわずか2%弱という非常に狭き門となっている。 Yコンビネーターはシード期のスタートアップに対して、シード資金と様々な起業支援を提供する。 毎年、年に2回、3ヶ月間のアクセラレーション・プログラムを開催する。 卒業生で企業価値が1,000億円を超す企業は、Airbnb、Stripe、Coinbase、Doordash、Instacart、Dropbox等、30社以上にのぼる。 上場した企業数は6社で、今年も数社が上場を予定しているようである。 買収による出口では、Segment社がTwilio社に32億ドル(約3500億円)で買収されている。 Yコンビネーターの全卒業生の企業価値の合計は約30兆円にのぼり、これまで6万人以上の雇用を生み出してきた。 全米最強のアクセラレーターと呼ばれる所以である。

Airbnbも卒業生

Airbnbの3人の創業者は個人のクレジットカードの与信枠からお金を借りつくし、 限度額まで使いきったカードがいっぱいの状態で最後のチャンスとしてYコンビネーターに応募した (注1)。 Yコンビネーターのパートナーは他の投資家と同様、ビジネスアイデア(個人の家に他人が泊まる)も当時の実績も気に入らなかったが、エネルギーの塊のような創業者3人に惹かれて投資を決定した。 Yコンビネーターのパートナーからのアドバイスを熱心にノートに書き取り、即行動に移す。 どんな苦難が降り掛かってきても諦めず、YコンビネーターのパートナーはAirbnbの創業者達をゴキブリのようにしつこいと表現している。 Airbnbは昨年12月に時価総額10兆円で上場した。

ベンチャーが得られるさまざまなバリュー

Yコンビネーターがベンチャーに提供する価値は、コミュニティー、事業立ち上げの様々なアドバイス、資金、ブランド等である。 コミュニティーについては、卒業生3,000社、6000人の起業家の高品質なネットワークがあり、ベンチャーが経験する様々な障壁について、実際に経験した起業家の先輩から助言が得られる。 相談相手にはコンピューター・セキュリティや核融合炉等の技術/サイエンスの専門家も含まれる。 Facebook, Quora(Q&Aサイト), Linkedin(ビジネス特化型ソーシャル・ネットワーク/人脈構築/採用プラットフォーム)を組合せたようなオンラインのプラットフォームを用意し、様々な質問や要望をポストでき、幅広くかつ奥深いナレージベースが構築されている。 卒業生を招いた講習会も企画され、卒業生/会社がベンチャーの最初の顧客になってくれるケースも少なくない。 起業家はYコンビネーターのパートナーと個別面談ができ、個々の状況に応じたアドバイスを得ることができる。 創業時には様々な問題がおこるが、今解決すべき重要な問題と今考えなくてもいい問題を教えてくれる。 直近のゴールよりも、将来の大きなビジョンを描くのを手伝ってくれる。やることが決まっていない、あるいは変更したい起業家の相談にものる。やることが決まっている場合は、まずはプロダクトを作ってユーザーと話をし、プロダクトを何度も作り直してブラッシュアップすることを勧める。その過程で、誰に課金するのか、いくら課金できるか、どう顧客にアプローチするのか、とったビジネスモデルの相談にものる。 また、どの投資家からいくら、いつ資金調達すべきか、といった助言、投資家の紹介、さらにはYコンビネーターのパートナーが投資家にベンチャーの強みを話してくれることもある。

日本発ベンチャーにもチャンスあり!

Yコンビネーターは一社辺り約12万5千ドル(約1370万円)を出資し、会社の7%程度の持ち分を取得する。 実際には、株や転換社債でなく、Yコンビネーターが考案したSAFE(Simple Agreement for Future Equity:将来株式取得略式契約スキーム)という契約で投資をし、Yコンビネーターが投資をした後に起こるシリーズAでの優先株での資金調達時にシリーズAの株に転換される。 Yコンビネーターはシード資金だけでなく、シード以降のシリーズAや成長段階の資金も提供する。 Yコンビネーターは国際化も進めており、今回のプログラムに選出されたベンチャーの半分は米国外出身で、45ヶ国からの参加があった。 残念ながら日本からの参加ベンチャーはなかったが、グローバルな市場を目指す起業家の方々には是非挑戦して頂きたい。 注1 https://blog.ycombinator.com/the-airbnbs/