2023年10月号
米国投資家がディフェンステックへの投資を活発化

シリコンバレーレポート

米国のベンチャー投資家がディフェンス・テック(防衛産業)への投資を活発化させている。

資金調達を加速するアンドゥリル社

今月、ディフェンステックのスタートアップであるAnduril Industries(アンドゥリル・インダストリーズ)が、4億から5億ドル(約600億円から750億円)もの資金を調達中である、との報道があった[i]
同社は昨年12月に85億ドル(約1兆2,750億円)の企業価値で15億ドル(約2,250億円)の資金を調達したばかりである。アンドゥリルは9月に、防衛および民間顧客向けに自律型航空機を開発するブルー・フォース・テクノロジーズの買収を発表しており、今回調達した資金も買収に使われると見られている。

[i] https://finance.yahoo.com/news/anduril-looking-raise-much-500m-163100737.html

アンドゥリルはバーチャル・リアリティのオキュラス・リフトの設計をしたパルマー・ラッキー氏により2017 年に設立された。軍事および防衛産業向けに、人工知能と機械学習を活用したソフトウェアとハードウェアを開発している。米国およびその同盟国と協力して、自律飛行体、水中車両や、さまざまな制御・運営システムを開発している。
2022年、米国特殊作戦軍と、10年間に及ぶ9億6,700万ドルの契約を締結した。同社の従業員数は 2022 年初頭は700 名だったのが、2022年末には 1,100 名以上に増加した。ラッキー氏は、米国の国防のニーズが変化する中、多くの大手ハイテク企業が米国防総省との取引に消極的なために米軍の技術の近代化が遅れてきており、アンドゥリルを設立したと述べている[i]

[i] https://news.crunchbase.com/ai-robotics/defense-tech-startup-venture-capital-anduril/

ディフェンステック

図1. アンドゥリルの自律飛行体 (AAV) (同社WEBより)

米国政府からの積極的アプローチ

米国の防衛コミュニティは、スタートアップ企業から技術を調達する姿勢を強めている。通常、政府への営業や協業は時間がかかり、スタートアップにとっては付き合いにくい存在だった。そんな中、これまで国防産業に関わってこなかった情報通信技術産業の企業と接触し関係を深める目的で、国防イノベーション・ユニット(DIU:Defense Innovation Unit)が設立された。シリコンバレー、ボストンにもオフィスを持ち、新興技術の利用促進を目指している。米国空軍の商業/軍事目的の航空機技術開発を支援するAFWERX などの取り組みもある。スタートアップ・コミュニティにおいて、政府はより良い顧客になりつつある。

さらに、防衛志向のスタートアップに初期段階の資金を提供する北大西洋条約機構(NATO)の10億ユーロ(約1,600億円)のイノベーション基金も、ディフェンステックのスタートアップ投資を後押ししている。
NATOイノベーション基金は、人工知能 (AI)、バイオテクノロジー、エネルギーと推進機能、宇宙、自律性、極超音速システム、新素材と製造、量子コンピューティング、次世代通信の分野に注力し、最先端のハードウェアとソフトウェア技術に投資を行う。PitchBookの調査によると、国家安全保障の目標を達成するための革新的な技術に対する米国政府の需要の高まりにより、防衛技術市場は2027年までに1,847億ドルにまで急増すると予想されている。

起業家のメンタリティーの変化

起業家のメンタリティーも変化してきている。スタートアップは本来は政府や既得権と戦う立ち位置で、その技術は世界を良くするために使われるもので、軍関係での活用はタブーだった。ところが、人々の安心と安全を守り、人的被害を防ぐのに役立つことに貢献したい、と考える起業家も増えてきたようだ。

ベンチャーキャピタルの変化

シリコンバレーの投資家は、採算性や技術の利用方法に対する懸念から、ディフェンステックへの投資には消極的だった。しかし、国家安全保障を守る上での防衛技術の重要性に対する認識が高まり、アンドリーセン・ホロウィッツやファウンダーズ・ファンドなどのベンチャーキャピタルが、アンドゥリルやパランティア社など防衛技術の新興企業への資金提供を開始した。PitchBookのデータによると、ベンチャーキャピタルは2022年に防衛技術スタートアップに343億ドルを投資し、2019年の投資額の2倍となった[i]

今年6月には、米国トップクラスのベンチャーキャピタルであるセコイア・キャピタルが、同社初のディフェンス・テックのハードウェアのスタートアップへの投資を実行した、という発表があった[ii]。マッハ・インダストリーズ社にシードで570万ドルを投資した。マッハ・インダストリーズ社は、現場で調達した水素と酸素の化学反応を利用して強力な爆発を起こし、無人航空機や航空防護装置に燃料を供給できるシステムの開発に取り組んでいる。
セコイア・キャピタルは、産業部門と同様に防衛部門も重要な転換期を迎えており、防衛システムの老朽化とサプライチェーンの課題により、米国の防衛技術の進歩に資するイノベーションの機会はますます魅力的なものとなっている、と述べている。

(以上)

[i] https://www.reuters.com/technology/sequoia-makes-first-defense-tech-investment-mach-industries-2023-06-15/

[ii] https://www.sequoiacap.com/article/partnering-with-mach-a-new-generation-of-defense-technology/

著者

川口 洋二氏

Delta Pacific Partners CEO。米国ベンチャーキャピタルの共同創業者兼ジェネラル・パートナー、日本と米国のクロスボーダーの事業開発を支援する会社の共同創業兼CEOなど、24年に渡るシリコンバレーでの経歴。NTT入社。スタンフォード大学ビジネススクールMBA。

 
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