2024年8月号
好調ウォルマートの現実的なAI活用事例
巨大な店舗と毎日低価格で知られる米小売大手ウォルマートは、8月15日に好調な業績(4-6月期)を発表し、さらに今年の売上高と利益の見通しを上方修正した[i]。8月15日現在、ウォルマートはS&P500種株価指数で2024年で最もパフォーマンスの良い小売企業となった。
[i] https://stock.walmart.com/home/default.aspx
AIの活用状況とその経済的メリットについても言及
サプライチェーン管理と製品カタログ改善に生成AIを活用
ウォルマートの経営陣はカンファレンスコールで、同社はサプライチェーン管理システムと製品カタログを改善するのに生成AIを活用していると述べた。生成 AI を活用することで、ウォルマートは顧客が探しているものを見つられるようにし(製品カタログの強化)、会社の在庫管理 (どこに保管するか、何を保管するか) も効率化できる、とのことである。
同社のCEOのDoug McMillon氏は、ウォルマートは複数の大規模言語モデル(LLM)を使って、製品カタログ内の8 億 5,000 万件を超えるデータを生成・改善している と投資家に説明した。ウォルマートUSの社長兼CEOのJohn Furner氏は、同社が数億点の商品の属性や特性を入力するのに生成AIが役立っており、これを手動で行うと100倍の時間がかかっていただろうと述べた。また、このプロジェクトにより商品ページが改善されたことで、サイトや店舗での顧客の意図を理解するのに役立っていると述べた。
各アイテムの詳細と製品表示ページが非常に良くなり、より効果的にユーザーの意図に製品をマッチできるようになった結果、全世界のウォルマートEコマース事業は、前年同期比(2024 年4-6月期)で 22% 成長しており、Furner氏は、自社の製品カタログに生成 AI を使用したことが過去数か月にわたってEコマース事業の大きなイネーブラーになったと述べている。
マーケットプレイス販売者向けにもAIアシスタントを提供
McMillon氏はまた、同社のマーケットプレイスでの製品の販売者に対して新しい機能をテスト中で、例えば販売者がAIのアシスタントに販売に関するいろいろな質問ができるようにした、と述べた。これまでは、多くの長文の資料を見つけてきて、自分で読んで解釈する必要があったのが、AIアシスタントは簡潔な回答を提供してくれる。McMillon氏は、販売者には製品の販売に集中してもらいたいので、シームレスなエクスペリエンスを実現できるに越したことはない、と述べている。
ウォルマートはこれまで、利用者のショッピングの経験を向上させるために、ナビゲーションバーでの会話型検索、製品レビュー、製品要約、商品比較等に生成AIを活用してきた。
今年6月には生成AIを活用したショッピングアシスタントを同社モバイルアプリでテスト中と発表した[i]。ショッピング アシスタントは、顧客と自然で自由な会話を交わすことができる。たとえば、ショッピング アシスタントは、「5 歳の子供へのいいプレゼントは?」といった顧客の質問に答えることができる。
[i] https://tech.walmart.com/content/walmart-global-tech/en_us/blog/post/walmart-is-building-a-genai-powered-shopping-assistant.html
より高度な機能で“ショッピングコンパニオン”を育てビジネスを変革
今後、より高度な機能を順次搭載する計画で、最終的には利用者が信頼できるショッピングコンパニオンにまで成長させる。ウォルマートを、製品を購入する場所から、あらゆるニーズや機会において最初に立ち寄る場所に変革する、としている。
図1. ウォルマートのショッピング・アシスタント (同社ビデオより)
McMillon氏は、AIテクノロジーのユースケースは多岐にわたり、ウォルマートのビジネスのほぼすべてのエリアに影響を及ぼし、今後も AI と生成 AI アプリケーションの実験と世界規模での展開を推進すると述べている。AmazonとのAI競争も注目される。
(以上)
著者
川口 洋二氏
Delta Pacific Partners CEO。米国ベンチャーキャピタルの共同創業者兼ジェネラル・パートナー、日本と米国のクロスボーダーの事業開発を支援する会社の共同創業兼CEOなど、24年に渡るシリコンバレーでの経歴。NTT入社。スタンフォード大学ビジネススクールMBA。
ウォルマートの経営陣は株主・投資家向けカンファレンスコールで、需要の減少は見られないと強気な見方を示した。
低価格商品だけでなく、高所得層を中心にオンライン注文と店での引き取りや配達の利用も伸びており、顧客数の増加につながった。ウォルマートの業績を見ると、米国では、消費は衰えておらず、食料品配達などのプレミアムサービスを利用する人も依然存在するようである。
ウォルマートの経営陣は今回のカンファレンスコールで、同社のAIの活用状況とその経済的メリットについても言及した。生成AIを活用してなければ、このプロジェクトに現在の100倍以上の人員が必要だった、というコメントもあり、同社幹部は生成AIの成果に満足のようである。
これまで、マイクロソフトやOpen AI、グーグル等のAIの供給側の最新技術、巨額な先行投資が市場の期待を膨らませてきたが、最近になって、これらの企業が投資額に見合う収益を上げることができるのか、顧客企業はいつからAIサービスにお金を払ってくれるのか、懐疑的な意見も多くなってきた。ウォルマートの経営陣のAIの活用事例は、そのヒントを示し、またAIの活用を検討している企業には、現実的な活用法として参考になるかもしれない。