SDGs経営塾 第5回「本来と将来」:時間軸のイノベーション

SDGs

 私たちビジネスパーソンは、2020年からのコロナ禍を通して、時代の変化の大きな境目を体感中です。その「大きな変化の”大元”がいったい何か」に気づくことで、新しい未来と新しい経営の風景がきっと見えてきます。

 特に、SDGs成長経営には “将来のありたい姿”を明確に持つことが求められます。
本気で明確な”将来のありたい姿”がある経営とそれに迷いのある経営では、次の一手のスピードとパワーが大きく違ってきますね。

 本SDGs経営塾では、多くの経営者の方々に“SDGs成長経営”の心得と方法を、私の実体験を絡めながら『しる→わかる→かわる』の流れでお伝えしていきます。想像力・創造力の喚起に少しでもお役に立てれば幸いです。

「時間軸のイノベーション」

 前回は、“空間軸のイノベーション”の基本構造と事例をご案内しました。それは、別々のモノゴトを横(空間軸)に配置して、新結合でブリッジして、新しい全体(1ランク上の価値創造)を創出することでした。
今回は、本業や業界の“過去と現在”を縦(時間軸)に配置して、双方を新結合でブリッジして、新しい全体(1ランク上の価値創造)を創出する方法(図1)です。新価値創造研究所では、過去と現在という時間軸からの将来の価値創造を“時間軸のイノベーション”と命名しています。

 第2回コラムでお伝えしましたが、SDGsは“2030年のありたい姿”を明確にすることが求められますので、今回のコラムを通して、将来を価値創造する“時間軸のイノベーション”の手法を是非、体得されることをお薦めします。
前回の空間軸(横)と今回の時間軸(縦)の双方の赤枠(新しい全体)が創出できると、相乗効果が生まれ、SDGs成長経営のスピードが格段に上がります。相乗効果の具体的事例は、下記のコンビニ事例-①の中で紹介します。

 さて、“時間軸のイノベーション”は、前回の“空間軸のイノベーション”の図を90度右回転しています。将来に向けて“新しい全体を創る”という構造自体は変わりません。
それは、これまでの土台となる業界や本業の過去(本来)と現在の知を豊かにすることで、想像力と創造力を駆使して、将来の新しい価値や方向性を創出しようとする方法です。

 それでは図1をご覧ください。
横に配置した二つの三角形を縦に配置することから始めます。下の三角形は、“業界や本業の過去(本来)”を置いて、上の三角形には“現在の状況や課題”を置きます。
 過去を温(たず)ねて、元々のあり方(本来)を知ることにより、過去と現在の“両方の知”を豊かにして結合することで将来の新しい価値が生み出されます。
 故きを温ねて新しきを知る(=温故知新)。図1の左側に弓道のイラストを載せました。
 矢を的(まと)に的中するには、弓を後方に引いて溜めをつくりますね。この溜めが前に飛翔するための原動力になります。将来という的を射抜くために、過去と現在の十分な溜めが肝要というイメージがこの図から伝われば幸いです。
それでは、私のSDGs成長経営セミナーでよくご紹介する“時間軸のイノベーション”事例を二つの図解でご案内します。


図1 時間軸のイノベーション

「時間軸のイノベーション事例-①」

 一つ目は、皆さんご存知のコンビニの事例です。コンビニの本来(過去)は何でしょうか?それをよろず屋さんと設定しました。私が小学校低学年の時、栃木県の山裾の母方の実家がよろず屋さんを営んでいて、そこはお酒や灯油、日用雑貨、食料品等が所狭しと並んでいました。昭和30年代の半ばでしたが、沢山の人たちが行き交い、私は店先に座ってアイスクリームを食べながら、そこでのはずんだやりとりを見聞きすることが楽しみでした。 
 それが1980年代になるとコンビニという業態に変わり、2000年代になると、その地域は過疎化が進み始めました。さて、これから地域や都市のコンビニは、将来どうなっていくのでしょうか?
 図2は、コンビニと深い関係のある企業からの2015年の依頼で、10年後のコンビニの将来の価値を洞察したものです。故きを温(たず)ねることで見えてくる「本来のあり方」と「現在の課題」を新結合すると将来価値や方向性が洞察できることです。
2020年からのコロナ禍において、コンビニではお弁当や総菜、日用品等々の宅配サービスが進展しました。それは、よろず屋時代にあった“Good!のサービス”が、現代にコンシェルジュ的に進化して甦ってきたのです。過去にGood!であった懐かしいものが社会課題に向き合って、新しい仕組みやおもてなしを伴って生み出されることがポイントです。そのためには、将来の的を射抜く想像力と創造力が求められます。
 図2の“コンシェルジュ2020~30年”の「Great!の欄」には、社会のインフラの進展を上げていますが、コンビニと銀行の異業種コラボによるATMサービス等々、前回の“空間軸の具体的イノベーション”がここで威力を発揮します。ネットやAI、ロボット等のDXコラボレーションに伴って、コンシェルジュ的な新サービスが次々に生まれてくることは間違いありませんね。
この事例を通して、コンビニにおける、時間軸と空間軸のイノベーションの相乗効果を感じていただければ幸いです。


図2 時間軸のイノベーション事例-①

「時間軸のイノベーション事例-②」

二つ目は、同時期(2015年)に依頼された再生可能エネルギー事業のSDGs成長経営支援です。ソーラーパネルの販売で成長されてきたベンチャー企業ですが、2012年の再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT法)の買取価格が、政府規制により大幅引下げになることに伴う経営危機が明滅していました。
 早速、2016年の電力自由化以降の「再生可能エネルギーのビジネス環境」を、 “エネルギーの本来と将来(2025年) ”の図解で紐解きました。(図3)
 大手電力会社からのエネルギー供給のずっと前に、“炭焼き”の時代がありました。炭焼き事業に着目して、そのGood!をまとめると、
・循環型
・自産自消
・販売事業
の特徴がありました。しかし、炭焼きは効率が悪く、電力の大型供給は不可能でした。
その後、大手電力会社からの電力供給となりましたが、2011年の東日本大震災でエネルギー事情は一変しました。
 2015年の10年後に求められるのは、
・循環型クリーンエネルギー
・分散型Coエネルギー、資源確保
・地産地消、地域雇用発生
と洞察しました。
 6人で構成されたプロジェクトメンバーが特に注目したのは、“地産地消・地域雇用発生”の地域創生の項目でした。それが強いモチベーションとなり、燃える集団となって“自分たちの10年後のありたい姿”が一気に一枚の絵に描かれました。地域創生を目指した具体的な皆の想いが滲み出ていて感動しました。それが、プロジェクトのSDGs成長経営の発火点となりました。
 重要なことは、繰り返しになりますが、過去(本来)と現在(社会課題)から、将来のありたい姿や特徴、方向性を洞察できるということにあります。
参考に、ツイッター創業者のジャック・ドーシーの座右の銘を記します。
「未来は既にここにある。
全ての人に均等に配分されていないだけだ」
そう、未来は既にここ(過去と現在からの洞察)にあります。


図3 時間軸のイノベーション事例-②

「時間軸のイノベーション-まとめ」

二つ目の事例にあげたベンチャー企業の歴史は数年ですが、本業の本来を展(ひら)くことがその後の飛躍のきっかけになりました。
 是非、本業や業界の本来を紐解いてみてください。
改めて、どのように将来を紐解いていくのかのコツを図4でお伝えします。
ポイントは“A: 過去のGood!”という現在の中では薄れてしまったものが、“B: 現在のBad!(社会課題)”と新結合することで、新しい全体として、“C: 将来のGreat!”に甦ってくるという図式です。
ただ、この図式はすぐには使いこなせないという声が上がります。
・A: いったい何を過去(本来)に置いたらいいのかわからない
・B: 現在のBad!に何を入れたらいいのか
・C: Great!に記した内容に自信が持てない

そのため、SDGs成長経営のご支援では、下記の様な“時間軸のイノベーション”事例をビデオで体感いただき、“インターホンの本来と未来”という誰でもわかる事例から、次々に複数のテーマを検討してもらうと、だんだん手法に慣れてきて、“自社の本来と将来”を自ら導きだすことができるようになってきます(図4)。本業の“本来と将来”“ありたい姿”が明確になり、SDGs成長経営への道を進まれている多くの社員・経営者の方々を輩出してきました。
 ・アナログ→デジタル→・・・
・消費者→生活者→・・・
 ・寺小屋→集団教育・一律教育→・・・
・印刷メディア→電子メディア→・・・
・オフライン→オンライン→・・・
・CSR→CSV→SDGs→・・・
・守→破→離
・Others

重要なことは、視野(空間軸と時間軸)を大きく広げて、自らつくっている限界や縛りを解き放ち自由自在にすることにあります。
行き詰まりから脱皮するには、赤枠(=新しい全体)を我がものにすることが成長経営の源泉であるという認識に立って、“空間軸のイノベーション”であれば“広い知”、“時間軸のイノベーション”であれば“高い知”を体得することにあります。

 赤枠は、常識の枠の外にあり、未常識(将来の常識)の領域です。
ここまで2回にわたって、赤枠を創出するための方法と事例をご紹介してきました。繰り返しになりますが、たくさんの事例を知って、図解の構造に慣れることで、自ら(自分たち)の気づきが生まれてきます。その体得した能力が自分の、会社の財産になります。
 
 さて、次回は“人間軸のイノベーション”(深い知)を図解でご案内します。
これまでのコラムで、何回か“情熱・本気”の重要性を記してきましたが、それが3つ目の赤枠(新しい全体)です。
 広い知、高い知、深い知の3つが揃いますので、楽しみにしてください。


図4 将来を紐解くコツ

次回のトピック

→大切なコトは目にみえないんだよ
 1.人間軸のイノベーション(深い知)  
 2.人間軸のイノベーションの事例

執筆者

橋本元司(はしもと・もとじ)

新価値創造研究所代表。SDGs成長経営コンサルパートナー・2030SDGs公認ファシリテーター

パイオニア株式会社で、商品設計や開発企画、事業企画などを経験後、社長直轄の「ヒット商品緊急開発プロジェクト」のリーダーとして、ヒット商品を連続でリリース(サントリー社とのピュアモルトスピーカー等)。独立後、「新価値創造」を使命として、事業再生、事業開発、人財開発、経営品質改革を行い多種多様な企業を支援している。