SDGs経営塾 第7回「世界観を持つ」

SDGs

 私たちビジネスパーソンは、2020年からのコロナ禍を通して、時代の変化の大きな境目を体感中です。その「大きな変化の”大元”がいったい何か」に気づくことで、新しい未来と新しい経営の風景がきっと見えてきます。

 特に、SDGs成長経営には “将来のありたい姿”を明確に持つことが求められます。
本気で明確な”将来のありたい姿”がある経営とそれに迷いのある経営では、次の一手のスピードとパワーが大きく違ってきますね。

 本SDGs経営塾では、多くの経営者の方々に“SDGs成長経営”の心得と方法を、私の実体験を絡めながら『しる→わかる→かわる』の流れでお伝えしていきます。想像力・創造力の喚起に少しでもお役に立てれば幸いです。

一つ上から物事をみる

 第4~6回で、広い知・高い知・深い知の方法と事例をお伝えしてきました。図1にある3つの知の“赤枠(空白)”に共通していることは何だと思いますか?

 その3つの共通は、“これまでの自分の中の固定概念(常識)の枠の外にある”ことです。そこでは“発想の飛躍”(トランスフォーメーション)が求められます。それが新しい価値の創造と成長経営につながるのですが、この“発想の飛躍”に慣れていないために、難しく感じる人が多いように思います。
 一方、SDGsと世の中は、待ったなしの生態系崩壊を回避してなんとか“Well-being”の将来をつくるために、これまでの延長線上ではない企業(経営者)の“変容・変革(トランスフォーメーション)の意志”を切望しています。
 鍵穴と鍵に例えると、企業の変容・変革の意志が“鍵穴”で、それを実現する“鍵”が、“3つの知”という関係です。その鍵穴と鍵がガシッと合った時に、SDGs成長経営が始まります。

 ここで、SDGs成長経営を自分に引き寄せるの“キーワード”をアップします。
・生命第一主義
・Well-being
・人々の生活を革新して、社会をより充実したものにする
 上記のSDGsのキーワードと自社をつなげる秘訣は、「一つ上から物事をみる」ということです。
 例えば、“犬”を事例にすると、
・犬→動物→哺乳類→生物→・・・
 上記のように、物事を見るとき視点を高くしてみること“抽象度を上げる”といいます。
右に行くと、抽象度が上がっていきます。抽象の反対は具体です。抽象度が上がっていくと見える世界が変わってきますね。皆さんのビジネスも同様です。
富士山の頂上に昇って視点を高くすると、見え方や意識が変わるのと同じです。
 前述の“赤枠”には『一つ上から物事を見る=抽象度を上げる』という飛躍のスキルが求められます。抽象度の高い思考を身に付けるには、変容・変革の強い意志と日頃から一つ上の抽象度で物事をみる訓練(第4回 図5:橋をかける)が有効に思います。
 SDGs成長経営には、この抽象度を上げる思考と実践が求められます。

 抽象度を上げた身近な具体例として、「スターバックス」を図解します。(図2)
 スターバックスの生みの親であるハワード・シュルツ氏は、 顧客に売っているものは、コーヒーではなくて“第三の場所”だと言っています。自宅(ファーストプレイス)でも、職場(セカンドプレイス)でもない、自分らしさを取り戻せる第三の居場所をコンセプトにして展開しました。
 “人々の心を豊かで活力あるものにするためにコーヒーを売っている。つまり、コーヒーが手段で、人々の心の豊かさ、活力が目的”
 先月、中目黒の“スターバックス リザーブR ロースタリー 東京”に行ってきましたが、その場には、“エシカル→サスティナブル→ハッピネス”の更なる改造が展開されていました。
 いったいそれは「何のために(Why・目的)」という“一つ上から物事をみる”思考と“経営者の変容・変革の意志”が企業を大改造に導いています。

図1 本質的な違いを生み出す「3つの知」


図2 1ランク上のレベル

イノベーションの3本の矢

 さて次に、3つの知を、“X軸(空間)、Y軸(時間)、Z軸(人間)”の3本の矢で図解します。(図3)
 SDGsセミナーでは、“3本の矢”のそれぞれのイメージが湧くように、そして、欧米との違いがビジネスに出力されることを意識して、日本の方法を踏まえた下記の四字熟語で説明しています。
・X軸(空間):二つでありながら一つである ⇒主客一体
 (茶道で使われる言葉で、亭主と客とが一体となってその空間や時間を創り上げるもの)
・Y軸(時間): 故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る ⇒温故知新
・Z軸(人間):引いて引いて大元に至る ⇒禅的思考
この3本の矢は、バラバラにあるのではなく連関しています。(図4)
 航海に例えれば、「深い知(Mission)=船の錨」と「高い知(Vision)=北極星」の一対があって、それを実現していくのが、「広い知(Innovation)」です。
(図4の「却来:きゃくらい、ぎゃらい」とは禅の言葉です。それは、“優れた風儀がつまらぬ「なりふり」を一挙に吸収、抱握していくこと=イノベーション”をいいます)

 大事なことは、断片的な“知”を結びつけた“体系知”があることで、思考の土台・型ができることにあります。連関した「知」の土台があることで、第4~6回でお伝えした素敵な“Story(物語)”、 “Serendipity(偶有性)”、“Strategy(構想)”が生まれてきます。
 3本の矢のつながりを、これまでの事例で取り上げたスティーブジョブズの「iPhone」で図解しますのでご覧ください。(図5)

図3 イノベーションの3本の矢


図4 体系知


図5 3つの知の合体

「世界観を持つ」とは?

 この2,3年の世界の変化を観ると、気候危機、コロナ禍、戦争、円相場、テクノロジーの融合等々、“環境・社会・経済”の変動が加速していることがわかります。
 いまは、“VUCA時代”と言われています。
“VUCA”とは、
・「Volatility(変動性)」
・「Uncertainty(不確実性)」
・「Complexity(複雑性)」
・「Ambiguity(曖昧性)」
の頭文字を並べたものですが、社会あるいはビジネスにおいて、“先行きが不透明で不確実性が高く、将来の予測が困難な状況であること”を示す造語です。
 しかし、このような時代だからこそ経営者には、時代の波に巻き込まれることなく、
「将来は予測するのではなく、将来はつくる!」
という“気構えと構想”がより重要度を増してきているように私は感じています。
将来を構想するには、将来に立ち向かう『世界観』を持つことが必要です。
「あの人は“世界観”を持っているよね」
とビジネスの場ではよく聴きます。
・あの人は、物事を深く考えている(深さ)
・あの人は、先をよく読んでいる(高さ)
・あの人は、他の領域まで好奇心が旺盛(広さ)
さて、私から経営者の皆さんへの質問です。
“いま、会社の将来に向けてどのような“世界観”を持たれていますか?”
自分ゴトとして、しばらく考えられてからの自答をお願いします。

 私共は、図4で図解した体系知を「世界観」と考えています。変化の激しい“VUCA時代”に、どのような“世界観”を経営者が持つかで“会社の将来”は左右されます。
“豊かな将来を構想する”には、体系的な知を基盤にした『豊かな世界観』が必要です。
 第4~6回でお伝えしてきた“本気・志(深い知)と想像(高い知)と創造(広い知)”を体系的にブラッシュアップして構想することが、“激しい変化への適応”と“隆々とした会社の将来”につながることを数々の企業ご支援で経験してきました。
“豊かな世界観とその展開”は、社員、関係者、社会の喜びにつながってきます。

「SDGsの世界観」とは?

 ここで、企業が求められている“SDGsの世界観”を提示します
それは“SDGs”という文字に端的に表されています。
S:(Sustainable): 持続性の何を最も大切にするかという“本気・志”の宣言(→深い知)
D:(Development): 上記対象の持続可能のための“企画・開発”の実践(→広い知)
G:(Goals): 17ゴールに紐づく2030年の“ありたい姿”の明確化(→高い知)
 この3つから、簡単に企業(経営者)の“SDGs実践度”が評価できます。
それでは、“S・D・G”に持ち点を配分します。(図6)
S:40点、D:30点、G:30点
 合計で100点満点ですが、自社のSDGs実践評価をしてみてください。
(“S”の配点が高いのは、本気・志がなければ、“D”“G”に続かないためです)

 “SDGs経営”をするということは、世の中に必要とされる経営をするということです。
その始まりは、“自社の世界観”と“SDGsの世界観”のお見合いです(第3回 図1を参照ください)。それを“男と女”の関係になぞらえると、相手(SDGs)について興味・関心がなければ、二人の関係は深まりませんし将来はありませんよね。打算的であれば、それはどこかで見透かされます。
 SDGs成長経営のためには、先ず自社の土俵である世界観(深い知・高い知・広い知)を描かれること。次に、上記のSDGsの世界観・価値観に共感して、自社との最適な関係をとらえ、磨き上げ(=新しい全体づくり)、志を持って、SDGsの土俵(プラットフォーム)に上がっていただきたいと思っています。(図7)
 そして、是非、その土俵に皆さんの“素敵な作品と物語”をアップしてください。
 SDGsは、実現されることを待っているニーズの宝庫です。そのSDGsの目標(Well-being)を達成するには、皆さんのビジネスの力の迅速な集結が必要不可欠です。

図6 SDGs実践度


図7 世界観の合体

次回のトピック

→SXとDX

執筆者

橋本元司(はしもと・もとじ)

新価値創造研究所代表。SDGs成長経営コンサルパートナー・2030SDGs公認ファシリテーター

パイオニア株式会社で、商品設計や開発企画、事業企画などを経験後、社長直轄の「ヒット商品緊急開発プロジェクト」のリーダーとして、ヒット商品を連続でリリース(サントリー社とのピュアモルトスピーカー等)。独立後、「新価値創造」を使命として、事業再生、事業開発、人財開発、経営品質改革を行い多種多様な企業を支援している。