中小企業のための新規事業の進め方(第2回)
~ビジネスアイデアは先駆的なユーザーからもらおう~

事業計画

 前回のコラムでは、新規事業のアイデアの収集について2つの方法をご紹介しました。1つは顧客のアプローチを待つ受動的な方法、もう1つは、先駆的な顧客の利用例や工夫を自ら探索してアイデアを収集する能動的な方法です。今回は、後者の方法について事例を交えて具体的に解説します。

先駆的なユーザーにアプローチしてアイデアをもらう方法(リード・ユーザー・リサーチ)

 経営学では、この方法は「リード・ユーザー・リサーチ」と呼ばれることは前回も述べました。リード・ユーザーという先駆的なニーズや利用例をもった顧客の意見を調査する方法です。リード・ユーザーは、ある製品やサービスのニーズを他のユーザーよりも早い段階で感じ取り、独自の工夫や改良をしている(またはその意見を持っている)先駆的なユーザーです。当たり前に予想される利用方法ではなく、少し変わった用途や独特の工夫をした利用例をもつ顧客なのです。

 この方法は、製品やサービスの開発を行う有効な方法です。世界的な大企業(米国3M社など)もこの方法を活用しています。3M社は、セロハンテープやポストイットなどの製品開発でよく知られていますが、新規事業を重視する企業であり、従業員が勤務時間の15%を自由な活動にあててイノベーションを目指していることも有名です。

さて、この方法の具体的なイメージは以下のようになります。

  1. まず自社の製品やサービスの既存のユーザーは、どんな使い方をしてどんな意見を持っているかを大まかに把握します。営業マンから顧客にある程度のヒアリングをしてもらってもよいでしょう。ポイントは、面白い利用例をもつユーザー、何か工夫をしているユーザー、改良意見をもっているユーザーを見つけることです。そして、自社が納品している製品やサービスの利用例や工夫例を教えてほしいとユーザーに申し出た場合には、ユーザーも協力してくれることが多いです。

  2. 面白い利用例や工夫をしている先駆的なユーザーを見つけたら、開発メンバーが直接出向いて意見を聴き、利用状況を見せてもらいます。そして、そこから製品開発や改良のアイデアをもらいます。つまり、先駆的ユーザーの意見、工夫、利用例から、既存の製品やサービスの改良や開発のアイデアを収集します。

ユーザのアイデアからの開発事例

 具体的に、このようなプロセスでアイデアが集まった例としては、消費者向け商品では、スポーツ粉末飲料、マウンテンバイクなどがあります。具体的には、アスリートが工夫したレモンや糖分入りドリンクのレシピや、アウトドアが好きな若者の自転車改造例などが、新製品のアイデアになっています。またアウトドア製品の多くも、屋外活動での便利さを追求する声から開発されています。
 また、企業向けの製品でも事例は多くあります。大型重機などがこの例に該当します。土砂をかき集めるショベルだけでなく、壁を壊す鉄球、鉄骨を切断したりする大きなハサミなどの装置も次々と開発されています。
 当初、これらは小さな個別要望で、単なるカスタマイズや改良レベルかもしれません。しかし、同様の不便さを感じている潜在的な顧客が多ければ、大きな市場に成長します。また、今後の社会的な嗜好の変化で同様のニーズをもつ顧客が増えるかもしれません。マウンテンバイクは、当初は野山を走りたい若者向けの自転車という限定的なニーズでしたが、気軽に乗れる・機動的に乗れる便利さが浸透するにつれて、街や郊外でも乗れるような需要につながっています。

中小企業の事例

 身近な中小企業の事例もありますので、私が知る例を2つほどご紹介したいと思います。製造ラインの稼働管理システムを提供している中小企業は、複数工場の稼働状況を管理者がすぐに把握したいという要望を見つけました。その工場では、一人の管理者が小規模な近隣の複数の工場もあわせて稼働状況を管理していたのです。このニーズから、複数の工場の複数の生産ラインの稼働状況を携帯のアプリで見られるようなソフトウェアを開発しました。そして、多くの企業からの受注につながりました。

 もっと簡単な改良例もあります。アクセサリーの製造販売の「株式会社ストレッチマネジメント」は、女性用ピアスの着脱の手間やピアスの紛失を防ぐため、頻繁な付け外しをせずに、ピアスをつけたまま寝られる(耳たぶ側が平らで痛くない)ピアスを開発しました。これも忙しい顧客の不便さを解消する声から開発された事例です。

(出典はストレッチマネジメント社商品紹介ページ:https://push-pin.jp/

リード・ユーザー・リサーチのメリットなど

 更に、リード・ユーザー・リサーチのメリットとしては、開発した当初の顧客が確保されているため、全く売れない可能性は低くなります。要望や意見を聴いたリード・ユーザーが、その新規事業の最初のユーザーとして確保できるのです。その後、多くのお客さんのニーズを把握して改良を進めていくと、大きなマーケットに発展する可能性もあります。

 なお、消費者向けの製品やサービスについては、ユーザーの意見や考えを収集するマーケティング手法もすでにあります。例えば、顧客(消費者)と製品やサービスとの接点を確認し、その接点での顧客の感情をモニターしてマップをつくる方法、つまりカスタマージャーニーマップと呼ばれる方法もそのひとつです。そのマップをもとに、顧客の不便さを解消するような製品やサービスを検討することができます。なお、このカスタマージャーニーマップについてはネットの情報や書籍が沢山ありますので、ここでの説明は割愛させていただきます。

 さて、次回はこれらの新製品やサービスについて収集したアイデアを事業に結びつけるための次のプロセス、②ビジネスコンセプト検討(ビジネスの概要:何を、誰に、どのようになど)のポイントについて解説します。

著者

矢本 成恒氏

名古屋商科大学経営大学院教授、東京人財育成株式会社取締役、中小企業診断士、日本開発工学会(日本学術会議登録団体)副会長
NTT持株会社での戦略立案、複数のベンチャー起業など、これまでの経営者・経営コンサルタントの実務経験と学術研究をもとに新規事業や企業経営に関する講演&研修を実施している。
東京大学博士(工学)・筑波大MBA・東京大学卒業、ハーバード経営大学院(参加者中心教授法)プログラム修了

 
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