中小企業のための新規事業の進め方(第3回)
~ビジネスコンセプト:何を・誰に・どのように~

事業計画

 前回はビジネスアイデアの収集のポイントを解説しましたが、今回は新規事業企画の次のプロセス、ビジネスコンセプトについて説明したいと思います。収集したビジネスアイデアから、ビジネスの大まかな枠組みを企画していくプロセスです。
ビジネスコンセプトとはビジネスの概要のことですが、特に「何を」「誰に」「どのように提供するか」の3つが重要です。これを、ビジネスコンセプトの3大要素とも言う場合もあります。今回はこのビジネスコンセプトを解説します。

1.「何を」は製品やサービスではなく「顧客にとっての価値」である

 「何を」というのは、顧客に提供する製品やサービスです。
 ただし、その製品やサービス自体というよりも、それらが顧客に提供する真の価値を考えます。

 例えば、前回説明した事例の「複数の生産ラインの稼働状況をみられるアプリ」を考えてみます。実はこのアプリの機能的な説明はこのとおりなのですが、肝心なところがこの表現では記述されていないのです。
 肝心なところは、顧客にとっての価値であり、「いつでもどこでも簡単に稼働状況が把握できる」ということです。生産ラインの稼働状況を見られるソフトは多くありますが、「いつでもどこでも簡単に」が大切な価値なので、パソコンのソフトではなく、スマホのアプリになったわけです。


 このように、顧客の価値を把握すると、製品やサービスのスペックも決まってきます。「何を」について検討する時には、製品やサービス自体ではなく、平素から「顧客にとっての価値」を考えたいと思います。我々がよく目にする製品説明は、単なる機能面からの説明がほとんどです。

 その機能が実現する「顧客の価値」は何かということを意識すると、ふさわしいスペックが決まり、過剰な機能の削減や使いやすい操作の確認なども可能になります。

2.「誰に」は「何を」を考える前提として確認する

 つぎに「誰に」について説明します。実は、「何を」という価値を考えた時には、我々はすでに顧客を想定して、その顧客に認められる価値を考えています。つまり「誰に」は「何を」と同時に考えられています。上記のアプリの例では、「複数の生産ラインの管理者」が、想定したお客様なのです。

 ですから、この「誰に」ということを明確にしておく必要があります。この例では、「複数の工場の生産ラインを管理している管理者」を想定しているので、「いつでもどこでも簡単に」という価値が重要だと考えられるのです。

 前回、顧客からアイデアをもらって開発する方法(リード・ユーザー・リサーチによる方法)を解説しました。この方法では、最初から用途を工夫しているような先駆的な顧客(リード・ユーザー)から価値のあるアイデアをもらうことになります。
顧客の工夫(つまりそれだけのニーズがある)からアイデアを収集しているので、そのような想定顧客(リード・ユーザー)に対して価値がある製品やサービスを開発していることになります。

 そして、ここで重要なのは、この「誰(顧客)に」「何を(顧客価値)」届けるかをきちんと確認することにあります。つまり企画した新製品や新サービスが本当に顧客ニーズに合致しているかを確認します。当然ですが、本格的な投資をする前に、試作品や試行サービスを作って、それを顧客に見せて、あるいは使ってもらって、顧客の意見を確かめます。

 しかし、その試作品やサービスを作る段階でも、ある程度の稼働・資金・時間などの投資が必要になります。よって、企画の段階でできるだけ失敗や無駄を避けるための調査や検討をします。この部分は重要なので、次回に詳しい説明をする予定です。

3.「どのように」は、販売方法に加えてPR方法も考慮しておく

 最後に、ビジネスコンセプトの3要素「どのように」について説明します。「何を」「誰に」が決まってきたら、その製品やサービスをどのように顧客に提供するかを考えます。具体的には、製品の販路、サービス等の提供形態などの検討になります。もちろん、従来の販路を前提にしている場合も多いと思いますので、既存の方法を無理に変更する必要はありません。

 例えば、前回紹介したストレッチマネジメント社の「つけたまま眠れるピアス」の場合には、リピート購買を期待したいので、大手ネット販売サイトに加え、記事内の写真で紹介した自社のネット販売サイトを販路にしました。自社サイトでは写真や文章で詳しく説明することが可能です。そしてSNSを使って積極的にPRをしています。


(ストレッチマネジメント社の販売サイトhttps://www.piercing-nana.jp/SHOP/LSP1.htmlを著者が編集して作成)

 このSNSのように、販路に関連したPRについても、「どのように」価値を顧客にとどけるかということに関連して想定しておきます。この例では、多くの潜在顧客に新製品を認知してもらうために、SNSを活用しました。自社サイトでのネット販売が最初から集客できるとは限りませんので、商品送付時にカードや記事でSNSを案内し、SNSから商品説明をして割引券を配布したりしています。

 このように、上手に新商品の認知度を高めるためのPR活動についても、「どのように」価値を提供するかということに関係しますので、企画段階である程度のイメージを持ちたいものです。

4.まとめ

 今回は、前回までのビジネスアイデアの収集から、ビジネスコンセプトの3要素「何を」「誰に」「どのように」を検討することを解説しました。「何を」は製品やサービスではなく、それが実現する顧客価値であること、また「誰に」とは想定顧客ですが、最初にアイデアをもらった顧客層を想定していることを確認しました。また「どのように」では、新しい製品やサービスを認知させるPRの方法も想定します。もちろん、ビジネスをスタートしてからビジネスコンセプトを改善・変更することもありますが、失敗をさけるためには投資する前の企画段階で明確にしておきます。
 次回は、ビジネスコンセプトの3要素の「何を」「誰に」をどのように確認したらよいか、つまりニーズに合致した価値提供が出来ているかを確認するためのポイントを解説します。

著者

矢本 成恒氏

名古屋商科大学経営大学院教授(3つのMBA国際認証校)、東京人財育成株式会社取締役、日本開発工学会(日本学術会議登録団体)副会長、中小企業診断士
NTT持株会社戦略部門担当部長、ベンチャー起業・経営などの実務実績、経営コンサルタントの実務経験と学術研究をもとに、新規事業や企業経営に関する講演や研修を実施している。
東京大学博士(工学)、東京大学卒業、筑波大学 MBA、ハーバード経営大学院(受講生中心教授法)プログラム修了

 
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