中小企業のための新規事業の進め方(第4回)
~試作品や試行サービス前の調査その1~

事業計画

 前回はビジネスコンセプトの3要素の「何を」「誰に」「どのように」を説明しました。
今回は、特に「誰に(顧客)」「何を(顧客にとっての価値)」を試作品や試行サービスで確認する場合のポイントを説明します。そして、顧客に価値が認めてもらえるようにする「ピボット」の考え方を解説します。

1.試作品や試行サービスを準備する前にできること

 新規事業をする前には、「誰(顧客)に」「何を(顧客価値)」とどけるか、つまり企画した新製品や新サービスが本当に顧客から価値を認められるかを確かめる必要があります。試作品や試行サービスを作って顧客の反応を確かめることが必要です。
 しかし、その試作品やサービスを作る前の段階でできることがあります。特に中小企業は、経営資源にも制約がありますので、試作段階をする前にできるだけ調査をして失敗を避けたいものです。今回は、実際に試作をする前段階の以下の4つの確認作業のうち、特に重要な最初の2つについて解説します。
 (1) 潜在顧客の意見を聴いて価値を確認(顧客価値の確認調査)
 (2) 価値を実現する機能の追求(機能のピボット)
 (3)マクロの市場動向を業界レポートなどで把握する(市場性の確認)
 (4)製品やサービスが見込み通りできるかについて専門家の意見を聴く(実現可能性の確認)

(1)潜在顧客の意見を聴いて価値を確認

 まず、想定顧客に対して製品やサービスのイメージを伝え、本当に利用したいかどうかの意見を集めます。絵を見せて機能を箇条書きにするなどでもよいでしょう。なるべく多くの想定顧客から意見をもらって新製品や新サービスの顧客価値を確認します。ただし、最初にアイデアを収集した、先駆的な意見をもつリード・ユーザー(リード・ユーザーについては第2回の記事参照)は必ず想定顧客に含めます。新製品やサービスの最初のユーザーになってくれるからです。

 顧客の価値の確認ポイントは、相手にとって手間が省けたのか、どんな問題が解決されたのかということです。例えば、製品加工の手間が削減できた、加工しやすい素材になったなどが明確ならばOKです。顧客のアイデアを基に開発しているため、顧客が予想もしなかった価値が見つかるということはほとんどあり得ません。
中小企業のための新規事業の進め方(第4回) もし、あまり見込みがなければこの段階で別なアイデアを探します。しかし、そもそも最初にリード・ユーザー(先駆的な工夫例やアイデアを持つユーザー)の意見を反映した開発なのですから、全く顧客価値がない企画であることはほとんどありません。ただし、想定される価格が高いため導入できないというような意見はよく出てきます。ですので、この調査の時に想定価格も含めて確認することが必要です。

 また、すでに第2回で述べましたが、先駆的なアイデアを提供してくれた顧客は、新しい製品やサービスができれば自分達が便利になるため、調査に協力してくれることが多いです。そのため、なるべく企画者自らが意見を確認することが、その後も開発の気づきも得られ、自信にもつながります。

(2)価値を実現する機能の追求

 さて、上記のような確認作業を実施しますが、実際に顧客から価値が認められない場合、つまり「何を」「誰に」が上手くマッチしないときには、どうすればよいでしょうか?
その場合には、「何を」として提供できる機能や技術を変えるか、「誰に」という想定顧客を変更する必要があります。これを「ピボット」と言います。

 「ピボット」の概念を少し説明します。ピボットという言葉はバスケットボールで良く聞かれる言葉です。片足を軸にして、他の足をいろいろな方向に向けて動かすという意味です。新規事業でもこの「ピボット」という言葉を使います。例えば、潜在顧客を軸にして、必要な技術・製品・サービスなど(つまり提供価値)を探す活動がピボットです。またその逆で、自社の技術・製品・サービスなど(提供価値)を軸にして、そのターゲット(顧客)を探す活動もピボットになります。
 ただし、後者のアプローチは、技術シーズ先行の開発であり、ターゲット顧客がいつ見つかるかはわかりません。ですので、特に中小企業はリード・ユーザーの意見を反映した、前者のアプローチがふさわしいと言えます。

 具体的な事例で潜在顧客に必要な機能をピボットして探すプロセスを説明します。例えば、第3回で取り上げた、「複数工場の稼働率を把握する管理者を想定顧客とした稼働率管理ソフト」の場合、その価値は、複数工場の稼働率を一か所で集約して把握すること、つまり移動やデータ把握の手間が省けることでした。いつでもどこでも稼働率を把握するためには、PCソフトではなくスマホアプリの方が便利です。そこで、アプリの機能として提供することで顧客価値をさらに高めました。

 また、同じく第3回の記事の事例ですが、ピアスを付け外しする手間を省きたい女性を想定顧客にした、「つけたまま眠れるピアス」の開発では、耳たぶの後ろの留め金を平らにして横になっても痛くないだけでなく、ピンでとめられるようにしています。顧客にとっての真の価値は、つけたまま眠れるということではなく、ピアスの付け外しの面倒さから解放されることだからです。そのために、ネジ式ではなくピン式にするという改良もしています。
中小企業のための新規事業の進め方(第4回) このように、実際の開発では、当初のアイデアの実現をするだけではなく、何度かの機能のピボットすることが必要になるでしょう。想定顧客に価値を認められるには、別の機能をピボットで見つけることが重要になります。それらの機能を合わせてようやく顧客の価値が満たされることが多いのです。

2.早めの企画修正も重要

 もし、顧客から全く価値が認められないならどうしたらよいでしょうか?
その製品やサービスの企画を別の顧客に見せて、本当に価値が認められないのかを確認するためにさらに調査します。ユーザーニーズに基づいて開発された商品なので、すべての想定顧客から全く認められないことは通常は考えにくいです。
 しかし、もしこのような結果になったのなら、実際にはそれほど強い顧客ニーズがなかったということになります。そんな時には、最初のアイデア探しの段階に戻りましょう。別なリード・ユーザーからニーズを探して違うアイデアに切り替えます。時間や資金・稼働など、そして開発者の意欲や熱意も無駄にしなくて済みます。
 なお、何度もやり直しをすると、追加の稼働・コスト・開発期間がかかります。それをも想定して、ある程度の経営資源をキープしておいてください。難しい場合には早めにやり直しをすれば、試作品や試行サービスをする前の段階であるため、損失や無駄は大きくはありません。

3.まとめ

 今回は、試作品や試行サービスを作る前の作業である、顧客価値の確認調査と機能のピボットについて説明しました。これは、経営資源に限りがある中小企業の資金や稼働時間の無駄を最小限にするための、試作品や試行サービス以前の大事な事前調査です。
 次回は、事前調査のつづきとして、市場性の確認と実現可能性の確認について説明をしていきます。

著者

矢本 成恒氏

名古屋商科大学経営大学院教授(3つのMBA国際認証校)、日本開発工学会(日本学術会議登録団体)副会長、東京人財育成株式会社取締役、中小企業診断士
NTT持株会社戦略部門担当部長、ベンチャー起業・経営などの実務実績、経営コンサルタントの実務経験と学術研究をもとに、新規事業や企業経営に関する講演や研修を実施している。
東京大学博士(工学)、東京大学卒業、筑波大学 MBA、ハーバード経営大学院(受講生中心教授法)プログラム修了

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