中小企業のための新規事業の進め方(第6回)
~ビジネスモデルを考える~

前回までは、新規事業のためのビジネスアイデアの収集、そしてビジネスコンセプト(誰に、何を、どのように提供するか)を検討してきました。
今回は、その次のプロセスであるビジネスモデルの検討を解説します。
1.ビジネスモデルとは
2.利益を得る仕組み(売上とコスト)の検討
利益を得るためには、売上とコストを想定する必要があります。
企画段階での厳密な予測は困難ですが、商品やサービスの値段や投資規模の検討などのためには必要な作業です。
コストを検討する
まず、予想しやすいコストから検討していきます。
原材料、加工、提供のためのコスト(流通や代理店手数料なども)など、主なものからリストアップします。設備投資から発生する減価償却費も考慮してください。投資を回収することも必要であるためです。また、前回述べたように、サプライヤーからの意見も参考にしてください。企画アイデアを秘匿したい気持ちがあるかもしれませんが、「サプライヤーから必要な部品が提供可能か否か、いくら位かかりそうか?」などは、ある程度事前に聞いておかなくてはなりません。
また、大切なことは、コストを固定費と変動費にわけることです。固定費は販売数量にかかわらず固定的にかかる費用です。例えば、生産設備や土地代などが該当します。また、変動費は販売数量ごとにかかる費用であり、材料費や生産に関わる水道光熱費などが該当します。売上から変動費を引いた金額で、固定費を回収し、その残りが利益になります。1個売れれば変動費は回収できますが、固定費を回収するには、ある程度の販売量を確保する必要があるからです。
なお、コストを安くするには新製品やサービスの機能を見直すことも必要です。前回は顧客価値にふさわしい機能にする必要性を述べましたが、顧客にあまり価値を認められない機能があるなら、それを潔く取り除くことも考えます。従来の機能を残すメリットとコストの安さのメリットを天秤にかけ、価値のある機能に絞ることもコスト削減につながります。
売上を考える
次に、売上について考えます。売上は、その製品やサービスの価格×販売数で計算されるため、どの程度の価格でどの程度の数量売れるかという予測をすることになります。価格については、想定顧客の意見を収集する段階である程度は想定できるでしょう。当然ながら、顧客の必要性が高いほど、高価格で売れる見込みがあります。
また、個数については、大雑把でもよいので見込み販売数を考えます。想定顧客が限定されている場合(既存顧客と同じ)には、ヒアリングで購入意向を想定できます。しかし、新しく多数の顧客を想定している場合には、これも前回のような関連分野の市場動向の調査結果を参考にして考えてください。
3.競合との差別化ポイントの確認
他社が類似の製品やサービスを提供していないか、または他社からすぐに真似されないかを確認することも重要です。他社にない強みを明らかにすることで、自らの製品やサービスの価値を守り、向上させることができます。
ただし、他社が全く模倣できないような新製品やサービスを企画できることはあまりないため、新製品やサービスを他社よりも早く顧客や業界に認知してもらう工夫も必要です。ホームページや展示会、場合によっては無料体験サービスなどもその手法になります。また、技術やノウハウが真似される可能性があるなら、特許で防衛することも検討します。すると、これら差別化を維持するためのコストも予想しておく必要があります。
また、必要な材料や技術を提供してくれるサプライヤーやパートナーの存在も大切です。例えば、入手困難な材料や部品を提供してくれる会社、微細な加工をしてくれる会社などは新製品やサービスに必須です。このような重要パートナーとの連携も差別化要因となりますので、良好で強い連携を構築する努力も重要となります。
4.ビジネスモデルをわかりやすく記述する
利益を得る仕組みが確認できたなら、ほぼビジネスモデルの骨子が出来たことになります。そこで、ビジネスモデルをまとめた図を記述します。社内での説明はもちろん、補助金や融資資金の獲得のための説明資料として活用できます。
ビジネスモデルの記述方法はいくつかあります。ビジネスモデルのフロー図、ビジネスモデルキャンバスやリーンキャンバスなどが有名です。今回は一番簡単なフロー図について説明します。フロー図は、以下の図のように、商品やサービスの提供、売上や費用のお金の流れを記述したものです。直感的・視覚的にビジネス概要を説明することに優れています。他の2つはやや詳細な説明が必要になるので説明を割愛しますが、興味あるかたはネットや書籍で解説が見つかりますので参照してみてください。
5.まとめ
今回は、ビジネスモデルについて解説しました。ビジネスコンセプトに加えて、収入支出の見通しを検討しました。特に販売数と価格の予測が必要でした。また、他社との差別化ポイントを考えることで、独自の製品やサービスの価値を守るためのコストを想定することも留意点として挙げました。そして、関係者や金融機関の支援を得るために必要な、ビジネスモデルのフロー図についても述べました。
次回は、新規事業の最後のプロセスであるビジネスプランについて解説します。
著者
矢本 成恒氏
名古屋商科大学経営大学院教授(3つのMBA国際認証校)、日本開発工学会(日本学術会議登録団体)副会長、東京人財育成株式会社取締役、中小企業診断士
NTT持株会社戦略部門担当部長、ベンチャー起業・経営などの実務実績、経営コンサルタントの実務経験と学術研究をもとに、新規事業や企業経営に関する講演や研修を実施している。
東京大学博士(工学)、東京大学卒業、筑波大学 MBA、ハーバード経営大学院(受講生中心教授法)プログラム修了

ビジネスモデルの定義はいろいろとありますが、簡単に言うと、「商品やサービスを提供して収益を得る仕組み」です。他に「顧客に価値を届ける仕組み」といった表現もありますが、価値を届ける対価として収益を得るので、同様の意味だと捉えることができます。
ビジネスモデル検討のもとになるものは、前回まで解説したビジネスコンセプトです。
誰に(想定顧客)、何を(どのような価値を)、どのように(販売チャネルやプロモーションなど)というビジネスコンセプトの3大要素から、収益を得る仕組みを考えます。ただし、当然ながら、ビジネスでは収益(収入・売上)だけでなく、利益を確保することが大切です。