中小企業のための新規事業の進め方(第7回)
~ビジネスプランの利用シーン~

事業計画

前回までの記事を振り返ってみます。まず、新規事業のためのビジネスアイデアの収集(第1回、第2回)、次に、誰に・何を・どのように提供するかというビジネスコンセプト(第3回)を検討しました。そして、顧客価値や市場性の確認など(第4回、第5回)で新製品やサービスの機能を決め、コストや収益を予測し、その仕組みをビジネスモデルとして(第6回)記述しました。

さて、今回からは3回にわたって、これまでの検討内容をまとめたビジネスプラン(事業計画)のポイントを解説します。ビジネスプランという言葉はすでに一般的になっていますが、事業の概要や戦略をまとめた計画書です。みなさんはすでにイメージを持っていると思いますので、今回は、ビジネスプランの利用シーンについて説明します。まず利用シーンを想定し、どのような書き方が求められるのかをふまえたうえで、次回以降でその内容を解説したいと思います。

1.ビジネスプランとは

ビジネスプランは事業の概要や戦略をまとめた計画書です。ビジネスコンセプトやビジネスモデルをまとめたもので、ステークホルダー(利害関係のある関係者)への説明や提出が必要になるものです。この利用シーンから、どのような内容や記述が求められるのかを考えていきます。

2.ビジネスプランの利用シーン

(1)経営スタッフや従業員への説明

新規事業は社員の稼働や会社の資金を使います。そのため、まず協力をしてもらう社員の理解が必須だと考えてください。私の知る限り、これが十分ではないケースが多くあります。

社員の何人かは、「社長は本業をおろそかにして夢を追っているのではないか?」「上手くいくかどうかわからない開発にお金を使うなら、社員の給料をあげてほしい」などと思っているかもしれません。また、財務や経理スタッフは、どんどん投資額が膨らんで、会社の経営が悪くなるのではないかと心配していることもあります。こんな状況になると、社員の新規事業への協力が得られにくいばかりか、既存事業に対する労働意欲にも影響を与えます。社長がひとりで事業開発をしていたとしても、社員は気が付いています。経営ナレッジコラム

新規事業に取り組む際には、企画の段階から必ず社内説明の機会を設けて社内の理解を得るようにしましょう。そして、ビジネスプランの作成段階では、ある程度の事業構想がまとまっていますので、今後の計画について説明してください。

社内説明では、新規事業に取り組む必要性、どのようなコンセプトを検討しているのか、今後の計画などについて、熱意をもって語ってください。詳細まで説明する必要はありませんが、機密保持ができる範囲で結構です。また、会社の稼働や資金の投入について、既存事業に影響がない範囲で実施することも説明し、社員の不安や懸念を取り除いてください。

中小企業ではオーナー社長自らが新規事業を手掛けることが多いです。投資や稼働などの経営資源の投入判断が必要ですし、何より失敗にもめげない熱意や部門横断的な協力体制も必要であるため、最も望ましい形です。しかし、そのためには、既存事業のマネジメントをある程度他の幹部に任せて、社長自身の稼働時間を捻出することが必要になります。すると、権限移譲された幹部は、これまで以上の判断が求められるようになりますので、彼らへの動機付けも必要になってきます。
そのような意味からも、ビジネスプランの抜粋などを利用して、新規事業の将来展望を社内説明することは必須であると考えていただきたいと思います。

(2)銀行や投資会社への説明

新規事業をするために、銀行や信用金庫から融資を受けるケースも多いと思いでしょう。また、投資会社や既存株主から出資を受けて新会社を設立して新規事業を開始することもあります。いずれにせよ、融資や出資をしてもらう判断材料として、ビジネスプランの説明や提出が必要になります。これは資金確保のためには必須です。

さて、この場合には新規事業の企画自体のよさ(すでに試行実施していて成功見込みが高い、市場も大きいなど)に加えて、それを説明する経営者や企画自体の信頼性の高さも審査されると考えてください。説明がわかりやすいか、誇張や省略がないか、事業の課題やリスクなどもきちんと言及しているかなどが判断ポイントです。いい加減な人物や企画だと思われないようにしましょう。

また、新規事業だけではなく、既存事業の状況、資金の状況、過去の融資や返済の実績などについても説明が必要になります。新規事業への融資の返済能力を確認するために、既存事業の財務的な安全性・収益性・成長性などもチェックされるためです。また、既存事業と新規事業でシナジー(相乗効果)がある場合には、それも言及しておくようにしましょう。

(3)ビジネスパートナーへの説明

技術を持っている他社やサプライヤーと新製品やサービスを共同開発する場合もあると思います。また、自社が独自で開発した場合でも、重要な技術や部品を他社から提供してもらうこともあります。さらに、販路として他社の協力を得ることが必要な場合もあります。そのため、ビジネスパートナーに新規事業を説明するケースも想定してください。

経営ナレッジコラム02

このような場合には、通常は機密保持契約を締結してから、ビジネスを検討することになります。そして、ビジネスプランがある程度出来た時点で、事業化に向けてその内容をある程度共有する必要があります。
ビジネスパートナーから、この段階で懸念が表明されることもあります。十分な部品の供給が得られない、生産の歩留まりが悪そうだ、生産能力を増強する投資が必要だなど、この計画立案段階で現実的な検討が始められるためです。
実際の事業を開始してから問題が見つかることは避けたいため、リスク管理的な意味でもビジネスプランの共有は大変重要です。

(4)補助金や助成金の申請

また、政府や自治体の補助金・助成金を申請する際にもビジネスプランの提出が求められます。この場合には専用の書式に書きこむことが必要になる場合もあります。いずれにせよ、わかりやすく記述することが求められます。
なお、補助金や助成金の申請については、別の回であらためて解説します。

3.まとめ

今回は、ビジネスプランの説明や提示が求められるシーンを記述しました。どのような利用シーンでも、熱意をもって、わかりやすく、信頼性が高いと感じられる(誇張なく、試行実施などのファクトに基づいた)説明や記述が求められます。
また、既存の事業とのシナジーや既存事業の状況や影響も考慮することも必要でした。そして、ビジネスパートナーへの説明では、パートナーの懸念を把握しその解決策を検討することにもつながり、今後の事業開始の障害を取り除くことにもなります。
なお、私は、いつも事前に2~3回説明の練習をして、スマホに録画して見直すことをすすめています。説明時間は状況によりますが、3分から10分程度で良いと思います。

さて、次回はビジネスプランの構成や内容について記述します。すでに述べたように、これまで検討してきたビジネスアイデア、ビジネスコンセプト、ビジネスモデルの集大成です。書き方や説明の仕方の工夫を解説したいと思います。

著者

矢本 成恒氏

名古屋商科大学経営大学院教授(3つのMBA国際認証校)、日本開発工学会(日本学術会議登録団体)副会長、東京人財育成株式会社取締役、中小企業診断士
NTT持株会社戦略部門担当部長、ベンチャー起業・経営などの実務実績、経営コンサルタントの実務経験と学術研究をもとに、新規事業や企業経営に関する講演や研修を実施している。
東京大学博士(工学)、東京大学卒業、筑波大学 MBA、ハーバード経営大学院(受講生中心教授法)プログラム修了

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