海外ビジネスレポート
ヨーロッパのシリコンバレー「フィンランド」のスタートアップ
北欧の国「フィンランド」、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。「オーロラ」「おしゃれなインテリア」などを想像される方もいるかもしれませんが、ビジネスでは「イノベーション大国」「ヨーロッパのシリコンバレー」という代名詞がつく程、イノベーション創出の地として注目が集まっています。そこで今回はフィンランドで「DeskMe」を起業したCEOのVitaly Stockman氏の来日を機に、「DeskMe」について、またフィンランドのスタートアップ状況についてお話を伺いました。
「DeskMe」の起業経緯と事業展開
フィンランドのスタートアップ事情
フィンランドのスタートアップエコシステムは一言でいうと強固です。10年程前、同僚が大学で学生を前に講義した際、当時の就職希望職種は銀行員やコンサルタントが多く、スタートアップと答えた学生はいませんでした。それが今ではスタートアップ=クールという認識に変わり、起業したいという学生の声を多く聞くようになりました。またスタートアップが活況な分野も、ゲーム、ヘルスケア、クリプト(仮想通貨)、メタバース、XR/VR/ARなど広がりを見せています。
スタートアップイベントも有名になり、首都ヘルシンキでは学生が主導して運営されている「Slush(スラッシュ)」(※1)という世界最大級のスタートアップイベントが、毎年11月末から12月上旬に2日間連続で開催されています。「Slush(スラッシュ)」には世界中から参加者が集まり、コロナ前の2019年には約25,000人の参加者が来場しました。日本との繋がりができたのも、2018年にこのイベントに来ていた福岡市の方との出会いがきっかけです。
フィンランドのスタートアップの事業展開
フィンランドのスタートアップ企業の場合、立上げの段階から顧客の一部が海外企業であること、もしくは顧客が海外企業だけということは珍しくありません。フィンランドは小国ですので国内マーケットの規模は小さいです。そのため、最初から国際的なビジネスを意識する必要があり、立上げ時から国際的なビジネスの複雑さに順応するために厳しい要求がある一方、立上げ時から海外マーケットへの展開準備ができていますので、国の制限なく事業展開できるチャンスをより多く持っていることはフィンランドのスタートアップ企業の強みと言えるでしょう。
フィンランドから展開する国としては、ヨーロッパよりアメリカの方が利点は多いです。ヨーロッパは各国独自の文化、言語、法律、購買習慣があり、ローカライゼーションするのに多くの労力を要します。一方、アメリカは一国で巨大な市場ですし、言語面でも、英語を流暢に話すフィンランド人にとって障壁がありません。またここ数年は欧米だけでなく、中国、シンガポール、日本などアジアをターゲットにすることもフィンランド企業にとっては当たり前の事となってきました。
行政や金融機関のスタートアップ支援
フィンランドのスタートアップ起業家は、創業初期は給料がなく苦しい状態ですが、政府が食事面など最低限の生活ができるレベルの支援をしてくれます。そもそも、フィンランドは医療費無料、大学まで教育費無料など総合的に社会保障が充実しているので、生活に関する心配をすることなく事業に集中できます。政府からはスタートアップ支援としては様々なプログラムがある他(※2)、ほぼすべての金融機関にスタートアップ部門があり、スタートアップ向けの融資など専用のプログラムを準備してくれています。
事業初期段階からグローバル展開を視野に入れている企業がほとんどです。
フィンランド進出の魅力
事業拡大するにはフィンランドは良い国です。フィンランドは小国なのでマーケットが小さいですが、フィンランドに進出することを目的とするのでなく、ヨーロッパへの横展開を視野にヨーロッパ進出を始める最初の国としては最良な選択といえます。その理由としては、言語面と費用面です。言語面では、フィンランド語は公用語ではありますがフィンランド人は高レベルで英語を話します。費用面では、パリやロンドンに比べてコストを低く抑えることができます。そのため、フィンランドで実証実験を実施し、ヨーロッパ各国に広げるアプローチも効果的です。
日本市場参入への課題
日本は経済、文化ともに非常に魅力的な市場です。ビジネス倫理で世界的に高い評価を得ている日本ですが、同時に海外のスタートアップにとっては日本市場への参入にはいくつかの課題もあります。まず1つ目に距離です。今ではリモートでも活動できますが、イベントやマッチングの為に現地に赴く際の旅費は負担になってしまいます。次に、言語と文化の壁です。日本には英語を話せない、もしくは基礎レベルでしか話せないビジネスパーソンが多いのは関係性構築において非常に課題であると感じます。
最後に
よりエキサイティングなテクノロジーを有効に活用し、多くの人々の生活に影響を与えることが夢と語るVitaly氏。「DeskMeは今後ヒューマノイドロボットとAIを考えています。ヒューマノイドロボットは新しい技術の誕生により、家庭や職場で我々の生活を支え、さらには友達にさえなり得るだろうと捉えています。将来はヒューマノイドロボット会社も立ち上げたいですね。日本でも良きパートナーを見つけ、更なる事業拡大を目指したいです。」
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facebook.com/deskme
※1)Slush・・・2008年に開始したフィンランド発世界最大級のスタートアップイベント。起業に対する考え方を前向きに変えるため学生主導でスタートし、現在も学生主体で運営されている。2019年には100ヶ国以上からスタートアップ約3,500社、25,000人(うち投資家2,000人)が参加。現在はイベントだけでなく起業家育成プログラム等も実施。
※2)資金支援の一例
●Young Innovation company program:
フェーズ1:助成金250,000€(各種要件を満たし、認定を受けた場合)
フェーズ2:助成金250,000€(売上高、資金調達目処等初期の目標を達成した場)
フェーズ3:ローン750,000€
●その他、経済雇用省による認定スタートアップ企業への最大12か月間、月700€の支援など段階に応じた支援制度が充実。
起業する前、グローバル展開するフィンランドの金融ソフトウェア会社で10年以上働いていました。同社はフリーデスクだったのですが、毎朝席を探すという時間が不快でした。この不快な思いをしている人は他にもいるでしょうし、フリーデスクの中でも毎日好きな席を確保したい人もいるでしょう。オフィスにおける不満・不快を解決したいという思いから「DeskMe」の起業を決断しました。当社のサービスDeskMeは「オフィス環境を柔軟に管理する」というコンセプトで開発した、座席予約システムです。オフィスの3Dマップを作成し、DeskMeの機械をデスクに置くだけで、従業員などの利用者はオンライン上で3Dマップを閲覧しながら簡単にオフィスの席や会議室の予約管理ができるようになります。DeskMeを活用すれば、出社時に席を探す必要もなくなりますし、同僚や上司の出社状況を確認にも役立てることが出来ます。
コロナウィルスのパンデミック後、起業の原点である「オフィス環境を柔軟に管理する」という需要が非常に高まったと感じています。パンデミック初期は、フィンランドでは会社はリモートワークを強いられ、会社に固定の席がなくなりました。その状況は現在も続き、デスクシェアリングの意識が増え導入に消極的だったお客様からも改めて問い合わせ頂くことが増えてきました。特に若手社員や転職者はその傾向が強く、リモートワークの状況が入社の判断材料にもなっているようで、多くのフィンランド企業がリモートワークの推進に対する気持ちに変化が生まれているようです。